お見合いは断られない、しかし交際には至らない

アイカさんの写真を見せて、男性からお見合いを断られることは一度もなかった。「女医」であることにビビって断る人もいるのではないかという不安もあったが、男性はそれよりも美しい容ぼうに引かれている様子だった。

しかし「医者だけど、美人だから会いたい」という気持ちは、お見合いで彼女にしっかりと伝わっていた。高年収、イケメン、年下……婚活中の女性がうらやむような男性からの交際申し込みを、彼女は断り続けた。

それから半年後、ある男性が、結婚相談所の入会カウンセリングにやってきた。チューリップ帽に泥だらけの運動靴、それにジャージといういでたちで現れた。見た目はジャイアンそっくりだ。

「学校の遠足の帰りなんですよー。ガハハハッ!」ノリオさん(35歳)は、小学校教諭だ。教員採用試験に落ち続け、新聞配達と塾の講師をしながら、10回目の挑戦でやっと受かり、念願の職に就いたという。

「ノリオさんは、どうして小学校の先生になったのですか?」その理由を聞いて、私はすぐにアイカさんのことを思い出した。「この人となら、アイカさんは結婚できる!」

ノリオさんとアイカさんはすぐに意気投合し、交際3カ月のスピード結婚となった。なぜ、交際経験ゼロで、お見合いも進展することがなかった彼女が結婚を決意できたのか。きっかけは、お見合い当日の何気ないやりとりだった。

「ノリオさんは、どうして教員採用試験に10回もトライしたのですか? 私なら3回くらい受けてダメだったら、諦めてしまうと思います」「あ、それは簡単です。僕にはどうしてもやらなければいけないことがあるからです」「えっ、それは何でしょうか」「どんな子供たちも分け隔てなく、目いっぱい愛するってことです。嫌われる子は嫌われる振る舞いをする。それでいじめられたり、仲間はずれにされたりすることもある。どんな子に対しても、小学校にいる間に『僕は君を大事に思っている、愛している』ということを伝え続けたいと思っているんです。大人になって厳しい社会に行く前に、全力で大事にしようって決めたんですよ」