「美人はモテるでしょ?」と思われがちですが、優れた容ぼうを持っていても、過去に男性とお付き合いをしたことがないという人がいるのです。高収入で自立しており、見た目だけではなく性格も良い女性が、これまで交際できなかった理由、そして結婚相手に求めていたものとは?

モデル級美女、「彼氏いない歴32年」の理由

とある下町の喫茶店に、身長170cmはあるモデル級の美女が現れた。「きれいな人だなぁ」と見とれていると、私の目の前で立ち止まった。「大西さんですか? こんにちは、アイカと申します」「えっ? えええー!」その女性は結婚相談に訪れた私のお客様だったのだ。

聞けば、学生時代は青山や原宿を歩くたびに芸能事務所からスカウトされていたという。「当時は医学部の学生で、必死に勉強をしていましたので、それどころではありませんでした。それと、お恥ずかしい話なんですが……、実は私、一度も男性と交際をしたことがないのです」「ええー!」今日は驚くことばかりだ。

「アイカさんほど美しい人なら、男性からひっきりなしに声をかけられたのではありませんか」「近付いてくる男性に限って、ろくに会話もしたことがないような人ばかりなんです。つまり、私の性格ではなくて、見た目に興味をもっているってことですよね?」

これは年収が高い男性が「女性からお金目当てでアプローチされる」と悩むパターンに似ている。男性に不信感を持つアイカさんだが、それにはもう一つの理由があった。

「私が小学校3年生の時に、父が家を出て行きました。『私がいい子にしていなかったから、お父さんは出て行ったんじゃないだろうか』とずっと悩みました。そういうこともあってか、男性を信じきれないんです。」

根深い問題だ。しかし疑問が残る。そこまで男性不信なら、結婚する必要があるのだろうか。「母が半年前にガンで亡くなり、『家族がほしい』と強く思うようになりました。それで婚活を始める決心をしたんです」

32歳の美人という点をアピールすると、お見合いはたやすくセッティングできる。しかし、そこに飛び付く男性を、彼女は求めていない。さぁ、困った。

美人だからと言って、婚活がうまくいくとは限りません。

お見合いは断られない、しかし交際には至らない

アイカさんの写真を見せて、男性からお見合いを断られることは一度もなかった。「女医」であることにビビって断る人もいるのではないかという不安もあったが、男性はそれよりも美しい容ぼうに引かれている様子だった。

しかし「医者だけど、美人だから会いたい」という気持ちは、お見合いで彼女にしっかりと伝わっていた。高年収、イケメン、年下……婚活中の女性がうらやむような男性からの交際申し込みを、彼女は断り続けた。

それから半年後、ある男性が、結婚相談所の入会カウンセリングにやってきた。チューリップ帽に泥だらけの運動靴、それにジャージといういでたちで現れた。見た目はジャイアンそっくりだ。

「学校の遠足の帰りなんですよー。ガハハハッ!」ノリオさん(35歳)は、小学校教諭だ。教員採用試験に落ち続け、新聞配達と塾の講師をしながら、10回目の挑戦でやっと受かり、念願の職に就いたという。

「ノリオさんは、どうして小学校の先生になったのですか?」その理由を聞いて、私はすぐにアイカさんのことを思い出した。「この人となら、アイカさんは結婚できる!」

ノリオさんとアイカさんはすぐに意気投合し、交際3カ月のスピード結婚となった。なぜ、交際経験ゼロで、お見合いも進展することがなかった彼女が結婚を決意できたのか。きっかけは、お見合い当日の何気ないやりとりだった。

「ノリオさんは、どうして教員採用試験に10回もトライしたのですか? 私なら3回くらい受けてダメだったら、諦めてしまうと思います」「あ、それは簡単です。僕にはどうしてもやらなければいけないことがあるからです」「えっ、それは何でしょうか」「どんな子供たちも分け隔てなく、目いっぱい愛するってことです。嫌われる子は嫌われる振る舞いをする。それでいじめられたり、仲間はずれにされたりすることもある。どんな子に対しても、小学校にいる間に『僕は君を大事に思っている、愛している』ということを伝え続けたいと思っているんです。大人になって厳しい社会に行く前に、全力で大事にしようって決めたんですよ」

彼女が結婚でどうしても得たかったものとは

アイカさんは、その話を聞いて、涙が止まらなくなった。「うちは父親不在の家庭で、『自分がいい子じゃないから父が出て行った』って、子供の時から自分を責め続けてきたんです……」「よく頑張りましたね。よく頑張りましたね……」彼は何度も優しく彼女に語りかけた。「よく頑張りましたね」というシンプルな言葉が、彼女の心を溶かし、結婚へと踏み出す勇気を与えたのだ。

バリバリ働く女性は、仕事ができるだけではなく見た目も美しい人がかなり多い。そして、美しいがゆえにお見合いは断られにくいが、見た目にしか興味を持ってもらえず、それ以上の内面にまで踏み込んでくる男性がいないと嘆く人も多い。

「申し分のない条件の男性に出会ってもときめかない」のは、自分の心が冷えているのではなく、お互いに内面の深い交わり合いができていないからではないだろうか。まずは、これまでの人生で、自分がどんなことに喜びを感じ、またどんなことに傷ついてきたのか、一度振り返ってみてほしい。そして、信頼できる男性かどうかを見極め、その上で、喜びや悲しみを抱えた内面に踏み込ませる“隙”を作ってみてほしい。相手が信頼できる人物かどうかを判断するためには、あなたも相手の喜びや悲しみのポイントを探り、踏み込むことになるだろう。「内面の深い交わり合い」とは、こういうことではないかと思う。

大西明美
婚活アドバイザー。結婚相談所を経営。1977年大阪府生まれ。東京都文京区在住。過去20年で延べ4万3000件の恋愛を研究してきた婚活指導の第一人者。小中学校ではイジメを受け友達がいなかったため、周囲の人間関係を観察することを目的にして登校を続ける。特に恋愛に注目してコミュニケーションを学ぶ。高校生のとき、初めてできた友人に恋愛相談を持ちかけられ、日頃鍛えた人間観察眼を生かしたアドバイスを行い、無事に解決。それをきっかけに恋愛相談が立て続けに舞い込むようになる。婚活指導を通して、5年間で200組以上のカップルを成婚へと導いている。
著書に『となりの婚活女子は、今日も迷走中』(かんき出版)がある。