金融もデータサイエンスも、感情豊かな仕事

【原田】社内外のコミュニケーションの話になりました。そもそも尾原さんは社交的でいらっしゃいますか?

【尾原】人の話を聞くのは好きです。共感できることは、自分の中に取り込みたいですし、異なる考え方であれば、「なぜだろう?」と思います。

【原田】全く同じです。私も想定外のスタンスに出会うと「なぜだろう?」が先に来ます。自分の体の中に、いったん持ち帰るイメージですね。尾原さんが聞き上手であること、傾聴ができるということは、“社交性”の一つの形だと思います。

【尾原】大人になると、なかなか考え方は変わらないと言う人もいますが、いろいろな人と関わることで、自分の考え方を深めたり広げたりすることができますよね。それは年齢に関係なく、いくつになってもできると思います。

【原田】どんな仕事でも、コミュニケーションが大切です。データサイエンスは、データの動きの中から、人の感情の動きを発見する仕事。お金も人の感情によって動くもの。コミュニケーションがうまい人でないと、お金は動かせないのでしょうね。

【尾原】金融って、感情がない仕事に思われるかもしれませんが、そうじゃないんです。

【原田】そもそも、なぜ金融業界を、そのうちでも三菱東京UFJ銀行を選ばれたのですか?

【尾原】大学では経済、特に金融を学んでいたので関心があったのと、経済を支えるインフラということで、公共性が高い銀行に興味を持ちました。また、昔から国際的な仕事をしたいと思っており、伝統的にグローバル事業に強く、女性が多く活躍しているということで、三菱東京UFJ銀行を希望しました。

【原田】今は、ダイバーシティに関する活動にも取り組まれているそうですね。

【尾原】「ダイバーシティ推進隊」東京チームのメンバーを務めています。結婚して出産し、復職する上での制度は整ってきましたが、それぞれバックグランドの異なる人たちが働きやすい職場を作るにはどうすればいいか、現場の視点で施策を考える活動を行っています。メンバーは、行内のさまざまな部署から集められています。

【原田】子育てをしながら第一線で働いている尾原さんには、ぴったりですね。まさに“わが事”の立場から思索や意見ができる。

【尾原】チームは男女混合ですし、年齢層も幅広いです。店頭に出ている若い女性もいますし、本部のマネジメントレベルの男性もいます。私には現在4歳の娘がいて、娘が1歳のときに育児休業から復帰したのですが、その後声を掛けられて、2015年5月からチームに入りました。

データサイエンスは、新しい分野なので、まだキャリアパスがありません。でも、女性にはそもそも、これまで明確なキャリアパスがなく、ようやく最近できてきたところ。女性とデータサイエンスという組み合わせは、ベストマッチかもしれません。女性が活躍しやすい分野だと思います。

■インタビューを終えて
尾原さん、本日はありがとうございました。新しい仕事にはそもそも先達がいないので、自分で道を探りながら進まなければなりません。新卒で公共性の高い職場を選び、入社後の変化にも意義を見つけて乗り越えてきた道の途中では、ある時は強さを、ある時は柔らかさを求められたことと想像しています。道なき道を進むときに必要な主体性と柔軟性を持ち、現在はダイバーシティ推進にも取り組んでいらっしゃる尾原さん、引き続きロールモデルを見せてください。(原田博植)
原田博植(はらだ・ひろうえ)
株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 アナリスト。2012年に株式会社リクルートへ入社。人材事業(リクナビNEXT・リクルートエージェント)、販促事業(じゃらん・ホットペッパー グルメ・ホットペッパービューティー)、EC事業(ポンパレモール)にてデータベース改良とアルゴリズム開発を歴任。2013年日本のデータサイエンス技術書の草分け「データサイエンティスト養成読本」執筆。2014年業界団体「丸の内アナリティクス」を立ち上げ主宰。2015年データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー受賞。早稲田大学創造理工学部招聘教授。

構成=大井明子 撮影=岡村隆広