6.雑学で終わる人、教養に変えられる人

教養とは一体何でしょうか? たとえば、歴史や古典などの知識のことを教養だと思っている人も多いと思います。しかし、これらの知識は、知っているだけでは単なる雑学にすぎません。そうした知識は教養を形づくるための土台にはなるかもしれませんが、それ自体が教養になるわけではありません。知識=教養であるならば、コンピュータは最高の教養人であるということになってしまいます。

イラスト=北澤平祐

では「教養とは何か」といえば、私はその中心になるのは「自分で考える力」だと思っています。しかし、こうした「自分で考える力」というのは、ただ字面を読んでいくだけの読書を続けていても身につくものではありません。本の中の知識は単なる雑学のままで、それなりの知識は得られても、教養と呼べるものにはならないでしょう。

知識を教養に変えるために必要なのは、問題意識を持ちながら読むこと。具体的には、自分で問いを立てながら読んでいくことが大切です。

しかし、多くの人は、このように自分で問いを立てて考えることを苦手としています。学校の勉強がそうだったように、これまで問いは人から与え続けられてきたものだからです。

本はあくまでも、あなたが考えるための材料。大切なことは、著者が言うことをそのまま受け入れるのではなく、自分が考えるための材料として活用することです。

「著者はなぜこんな主張をするのだろうか」「反対の意見はないのだろうか」……。こうした問いを立てては、「自分ならこう判断する」と考えながら読むのです。このようにして自問自答を繰り返していけば、おのずと自分で考える力が鍛えられ、知識を教養に変えていくことができます。

情報や知識は、インターネットで検索すればいくらでも簡単に入手できます。今、私たちに求められているのは、ちまたにあふれている情報や多くの人の意見を、自分の頭と視点で判断する力です。こうした真の判断力を身につけていれば、どんな時代になろうと、明確な自己と主体性、そして自信を持って生きていけるでしょう。

三輪裕範
伊藤忠商事 ワシントン事務所長。1957年生まれ。81年、神戸大学法学部卒業後、伊藤忠商事入社。海外市場で活躍後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。会長秘書、伊藤忠経済研究所長などを経て、2015年伊藤忠インターナショナル副社長兼ワシントン事務所長。『クオリティ・リーディング』『自己啓発の名著30』『人間力を高める読書案内』など、著書は13冊ある。

構成=大井明子 イラスト=北澤平祐 撮影=遠藤素子、早川智哉