本を選ぶときは、自然に興味が向いたものを手に取ることが大事です。そして、内容がスカスカの「おかゆ本」を読むのではなく、「歯ごたえのある本」を読むようにしましょう。後編では「読書を習慣づける読み方」「難しい本の読み方」「教養に変える読み方」を学びます。(教えてくれる人:伊藤忠商事 ワシントン事務所長 三輪裕範さん)

■前編はこちら→http://woman.president.jp/articles/-/1257

4.読書を習慣にする

読書は苦行ではありません。まったく関心がない本を「読まなくては」と思いながら読むのでは、楽しくありません。自分にとって楽しく、愉快な経験でないと続きませんし、興味がないものは身につきません。自分の感性を大事にして、自然に興味が向いたものを手に取って読みましょう。

イラスト=北澤平祐

読書体験は、自分自身の成長に直結しています。読書ノートをつけると、それが目に見えて楽しいですし、読書の習慣づくりにも役立ちます。もっとも読書ノートといってもそんなに難しいことではありません。

自分が読んだ本について、読んだ日付と題名、著者、出版社名を記録するだけでいいのです。もちろん、簡単な感想を書いておくとベターですが、無理する必要はありません。あとでそのノートを見返すと、自分自身の歴史が映し出されていておもしろいものです。自分が当時、どんなことに興味を持っていたのか、何に悩んでいたのかなどがよくわかります。

また、読んだ本だけでなく、気になった本をメモしておくページも作っておくとよいでしょう。新聞や雑誌の書評欄や広告を見て関心を持った本、読んだ本の中で引用されていた本、友達に薦められた本などを書き留めます。書き留めたときには買って読む気にならなくても、何年かたってからその本が読みたくなることもあります。読書は「読みたい」と思ったときこそがベストタイミングです。

こうした読書ノートをつけることで、読書体験が確実に広がっていきます。そして、できればそのノートを毎日眺めていただきたいのです。見返すことが刺激になり、新しいアイデアが生まれることもありますよ。

5.難しい本にチャレンジする

最近の本はどれも、わかりやすさに重点が置かれています。表現も易しく、図解が多くて文章量も少ない内容のスカスカなものが多い。ほとんどかまなくても食べられる、おかゆのような本ばかり。

イラスト=北澤平祐

こうした「おかゆ本」ばかり読んでいると、歯ごたえのある良書が読めなくなってしまいます。そんな状態では、もし自分が関心のあるテーマで、知的刺激に満ちた栄養たっぷりの本に出会ったとしても、咀嚼(そしゃく)力がないためまったく歯が立たないということになりかねません。その本の栄養を十分に吸収できないばかりか、おいしさも味わうことができずに終わってしまいます。

たとえば10冊読むとすれば、そのうちの1、2冊は、少し背伸びすれば自分でも何とか手が届く、つまり、少し時間をかけて丁寧に読めば何とか理解できそう、というレベルのものを選んでいただきたいのです。最初のうちは難しく感じ、読み終えるのにひと苦労するかもしれませんが、だんだん抵抗感がなくなっていきます。

読書力は、確実に読書量に比例します。少しずつ歯ごたえのある本を読むようにしていけば、必ず読む力がついていきます。ある程度の読書量をこなすと、今まで読んでいたものでは物足りなくなって、さらに歯ごたえのあるものが読みたくなってくるものです。

「おかゆ本」は、読む力がつかないばかりか、自分で考える力を養うために必要な刺激もあまり得られません。今の自分から少しだけ背伸びをした読書を続けていけば、5年、10年の単位で見ると、読書力が伸び、考える力も着実に身についていることに気づくはずです。栄養の多い歯ごたえのある本に触れることで、あなたの読書体験はさらに豊かなものになっていきます。

6.雑学で終わる人、教養に変えられる人

教養とは一体何でしょうか? たとえば、歴史や古典などの知識のことを教養だと思っている人も多いと思います。しかし、これらの知識は、知っているだけでは単なる雑学にすぎません。そうした知識は教養を形づくるための土台にはなるかもしれませんが、それ自体が教養になるわけではありません。知識=教養であるならば、コンピュータは最高の教養人であるということになってしまいます。

イラスト=北澤平祐

では「教養とは何か」といえば、私はその中心になるのは「自分で考える力」だと思っています。しかし、こうした「自分で考える力」というのは、ただ字面を読んでいくだけの読書を続けていても身につくものではありません。本の中の知識は単なる雑学のままで、それなりの知識は得られても、教養と呼べるものにはならないでしょう。

知識を教養に変えるために必要なのは、問題意識を持ちながら読むこと。具体的には、自分で問いを立てながら読んでいくことが大切です。

しかし、多くの人は、このように自分で問いを立てて考えることを苦手としています。学校の勉強がそうだったように、これまで問いは人から与え続けられてきたものだからです。

本はあくまでも、あなたが考えるための材料。大切なことは、著者が言うことをそのまま受け入れるのではなく、自分が考えるための材料として活用することです。

「著者はなぜこんな主張をするのだろうか」「反対の意見はないのだろうか」……。こうした問いを立てては、「自分ならこう判断する」と考えながら読むのです。このようにして自問自答を繰り返していけば、おのずと自分で考える力が鍛えられ、知識を教養に変えていくことができます。

情報や知識は、インターネットで検索すればいくらでも簡単に入手できます。今、私たちに求められているのは、ちまたにあふれている情報や多くの人の意見を、自分の頭と視点で判断する力です。こうした真の判断力を身につけていれば、どんな時代になろうと、明確な自己と主体性、そして自信を持って生きていけるでしょう。

三輪裕範
伊藤忠商事 ワシントン事務所長。1957年生まれ。81年、神戸大学法学部卒業後、伊藤忠商事入社。海外市場で活躍後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。会長秘書、伊藤忠経済研究所長などを経て、2015年伊藤忠インターナショナル副社長兼ワシントン事務所長。『クオリティ・リーディング』『自己啓発の名著30』『人間力を高める読書案内』など、著書は13冊ある。