3.速読か、精読か

本は数多く読めばいいかというと、必ずしもそうではありません。書店には多くの速読法の本が並んでいますし、そうした本を書かれている人の中には、年間数百冊の本を読むという人もいます。しかし速読中心の読書は、あまりお勧めできません。読書の目的はさまざまなのですから、それに応じて読み方も変えた方がいいと思います。もし読書の目的が、単に情報や知識を得るということだけなら、速読もよいかもしれません。実際、私も一定時間内に特定の情報を集めなくてはならないときなど、スキミングという速読法を使うことがあります。

イラスト=北澤平祐

しかし、情報収集というのは、数ある読書の目的の中で中心的な価値をもつものではありません。読書のおもしろさ、醍醐味(だいごみ)は、本から知的刺激を得て、自分で考えるということ。本に書かれたことを知的刺激として受け取り、それに対してしっかりした自分の視点を持って、考える読書こそ真の読書と呼ぶにふさわしいものです。

その意味では、読書においては「量」よりも「質」が大切です。大量の本をななめ読みしても、結局大半は忘れてしまい、自分の中に残るものは少ないものです。忙しい中せっかく読書の時間を取るのですから、「元を取ろう」という思いをもって丁寧に精読したほうが心にも刻まれますので、得られるものも格段に多くなり、結局は時間対効果がより高くなります。また、本を読んで気になった箇所や印象に残ったところには線を引いておいて、ノートに写していくと、より頭に残ります。

読む冊数は少なくても、こうした質の高い読書を、長期にわたって続けていけば確実に考える力がつき、成長を実感できるようになると思います。

※後編は4/30に更新予定です。

三輪裕範
伊藤忠商事 ワシントン事務所長。1957年生まれ。81年、神戸大学法学部卒業後、伊藤忠商事入社。海外市場で活躍後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。会長秘書、伊藤忠経済研究所長などを経て、2015年伊藤忠インターナショナル副社長兼ワシントン事務所長。『クオリティ・リーディング』『自己啓発の名著30』『人間力を高める読書案内』など、著書は13冊ある。

構成=大井明子 イラスト=北澤平祐 撮影=遠藤素子、早川智哉