普段から本を読んでますか? どんな本を読んでいますか? 時間をかけて読んでいますか? 「読書の質」を上げれば、考える力が鍛えられ、あなたの魅力は磨かれます。グローバル企業の第一線で活躍しながら、13冊の著書を書いてきた伊藤忠商事の三輪裕範さんに、「ビジネスに活きる読書の方法」を聞きました。

1.読む人、読まない人の決定的な差

本を読むことで確実に得られるのは、思考への刺激です。知的刺激を受けると、いや応なく「考える」ことになる。だから読書をすると、考える習慣がつきます。

本を読まない人は、こうした知的刺激を受けることが少なく、なかなか考える習慣がつきません。だからテレビや新聞の情報、人が言ったことなどをどうしてもうのみにしがちになります。他人の意見に左右され、流されてしまうのです。

イラスト=北澤平祐

世の中は膨大な情報にあふれています。しかし、そのすべてが正確で有用なわけではありません。仕事をしていても、会議や打ち合わせ、あるいはまわってくる書類の中に、冷静に考えると「ちょっとこれはおかしいのでは」と思うようなことがたくさんあります。それを冷静かつ批判的に考える力、そしておかしいことはおかしいと指摘する主体性のある人間が、これからは特に求められるようになります。

「批判的」というと、日本語では「非難する」「あら探しをする」などの否定的なニュアンスがありますが、本当はそうではありません。良い点、悪い点を含めて総合的に自分で判断することが、本当の批判的なものの見方です。人の意見に耳を傾けて、いったんは自分の中に取り入れる。そして距離感をもって自分の頭で判断する。本を読むことによって、だんだんそうした批判的な視点が養われていきます。

私が日ごろ意識しているのは、陽明学者の安岡正篤(まさひろ)さんの「思考の三原則」という考えです。1つ目は、目先にとらわれず、長期的な視点に立つこと。2つ目は、物事の一面にとらわれず、多面的、全面的に見ること。3つ目は、枝葉末節にとらわれず、本質は何かを常に意識することです。こうした視点は、読書だけでなく、自分の考えをまとめる際にも大変役立ちます。

また、新たな視点で物事をとらえられるようになることも読書の魅力です。無から有は生じないように、クリエイティブなひらめきも、インプットの蓄積がなければ生まれません。

2.読むべき本、読んではいけない本

30代くらいまでは、自分の興味にまかせて、関心の幅を広げる時期だと思います。あまり意識せず、自分の興味の向くままに、さまざまなジャンルの本を読んでいただきたいと思います。

しかし、40歳を過ぎたあたりからは少しずつ、「絞り込み」を意識するといいでしょう。それまでに広げてきた中から、自分の真の関心分野を絞り込んでいくのです。掘り下げていきたいテーマを見つけて、深く追求していく。

イラスト=北澤平祐

これは、いってみれば横に広げた関心領域の中から1つを選び、縦に深く掘り下げていくという「T型読書法」とでも呼べるものです。でも私はここでとどまらず、それをもう少し進化させた「フォーク型読書法」をお勧めしたいと思います。T型読書法によって掘り下げるテーマや分野の数を、1つから2つ、2つから3つへと、フォークの“歯”のように増やしていくのです。

こうして、自分の関心分野の中から、特に精通したテーマを増やしていけば、そこから自分のライフワークを見つけることができるでしょう。

貴重な時間を使って読書をするのですから、質の悪い本を読むのは避けたいものです。私が本を選ぶ際に判断基準の一つにしているのが、口述筆記本かどうかということです。

一般的に、著者が時間をかけて書いた本に比べると、著者の話をゴーストライターが聞き取ってまとめた口述筆記本の中には、記述内容に正確性を欠くものが多いように思います。また、議論が大ざっぱなものも散見されます。こうした本は、その時々で大きな関心を集めている話題に関するものが中心なので、タイミングを逃さないよう、急いで出版されることが多く、どうしても質的な問題が出てくるのです。

3.速読か、精読か

本は数多く読めばいいかというと、必ずしもそうではありません。書店には多くの速読法の本が並んでいますし、そうした本を書かれている人の中には、年間数百冊の本を読むという人もいます。しかし速読中心の読書は、あまりお勧めできません。読書の目的はさまざまなのですから、それに応じて読み方も変えた方がいいと思います。もし読書の目的が、単に情報や知識を得るということだけなら、速読もよいかもしれません。実際、私も一定時間内に特定の情報を集めなくてはならないときなど、スキミングという速読法を使うことがあります。

イラスト=北澤平祐

しかし、情報収集というのは、数ある読書の目的の中で中心的な価値をもつものではありません。読書のおもしろさ、醍醐味(だいごみ)は、本から知的刺激を得て、自分で考えるということ。本に書かれたことを知的刺激として受け取り、それに対してしっかりした自分の視点を持って、考える読書こそ真の読書と呼ぶにふさわしいものです。

その意味では、読書においては「量」よりも「質」が大切です。大量の本をななめ読みしても、結局大半は忘れてしまい、自分の中に残るものは少ないものです。忙しい中せっかく読書の時間を取るのですから、「元を取ろう」という思いをもって丁寧に精読したほうが心にも刻まれますので、得られるものも格段に多くなり、結局は時間対効果がより高くなります。また、本を読んで気になった箇所や印象に残ったところには線を引いておいて、ノートに写していくと、より頭に残ります。

読む冊数は少なくても、こうした質の高い読書を、長期にわたって続けていけば確実に考える力がつき、成長を実感できるようになると思います。

※後編は4/30に更新予定です。

三輪裕範
伊藤忠商事 ワシントン事務所長。1957年生まれ。81年、神戸大学法学部卒業後、伊藤忠商事入社。海外市場で活躍後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。会長秘書、伊藤忠経済研究所長などを経て、2015年伊藤忠インターナショナル副社長兼ワシントン事務所長。『クオリティ・リーディング』『自己啓発の名著30』『人間力を高める読書案内』など、著書は13冊ある。