ネットの世界を強者が歩く時、必要なこととは?

こうした話は「逃げる女性は美しい」に限ったことではない。基本的に、ネットで男性が女性を語るのは難しい。なぜならネットはもともと“弱者のメディア”だからだ。インターネットの普及は、知り得る情報量と権力の大きさがほぼ同義だった過去の社会を覆し、情報に接する機会の平等と情報による民主化を進めてきた。

そんな民主化が進行して20年以上を経たいま、ネット言論には構造的な枷(かせ)が生まれている。“弱者のメディア”たるネットにそれまでの社会では力を持たなかった人々が流れ込み、ネットが言論の場として拡大し熱を帯びるこの現代に、弱者側の当事者感覚を持たない人、つまり強者と見なされる人間が弱者と見なされる人間について語るとき、その不自由さは顕著となる。

ネットは弱者のホームであり、強者のアウェーなのだ。例えば白人が有色人種について語ったり、ある程度のポジションにいる成人男性が女性のあり方を語ったりするには、繊細なバランス感覚を要する状況になっている。だからそのバランス感覚を制する者が、ネット言論での強者なのだろう。ネット上で異なる社会集団に所属する他者に向かって何かを発言し、その発言を相手の懐へきっちり届けるための最重要戦略。『セケンの勝ち方』筆者のプロフィールを見ると、「チャールズ・ブコウスキーを想起させる、パンクでシニカルな独特の文体がファンを惹きつける」とある。しかし彼の場合、パンクとかシニカルの前にやっておくべきことがありそうだ……。

河崎環(かわさき・たまき)
フリーライター/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。執筆歴15年。分野は教育・子育て、グローバル政治経済、デザインその他の雑食性。 Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどにて執筆・出演多数、政府広報誌や行政白書にも参加する。好物は美味いものと美しいもの、刺さる言葉の数々。悩みは加齢に伴うオッサン化問題。