何百年も磨き続けてきた「商い」を未来につなぐ

【原田】昨今、私がデータ活用の施策に着手する際に特に意識しているのが、コスト削減やスピードアップなどの「効率化」を目的とする場合と、人の気持ちを動かすなど「情緒への働きかけ」を目的とする場合の目標設定の造り込みです。これをしっかりしないと、例えば好きになってほしいから送っているDM(ダイレクトメール)なのに、結果としてお客様に不快感を与えることとなり、サービスが嫌われてしまいます。このような心がけが必要になってきていること自体が、データ活用がコミュニケーションの“省力化も“リッチ化にも役割を増してきている、何よりの証拠だと思います。

【北川】最近よく、「15年後、百貨店はどうなっているか」と意見を求められるのですが、正直言って、まったく分からない。例えば10年前に、これほどスマホやLINEのようなサービスが普及するなんて想像もできませんでしたよね。

でも逆に、15年前を思い返すと、やっていることは今とそう変わらないことに気づきます。友達とおいしいご飯を食べに行ったり、仲間と週末に出かけたり、映画を見て感動したり。ただ、友達と連絡を取り合う方法や、情報を得る手段はものすごく変化しました。手段は変わっても、求めているものは同じ。ですからおそらくこれからも、そうした情緒的なところは変わらないんじゃないかと思います。

【原田】百貨店のルーツは呉服屋ですよね。まさに今で言うファッション。衣食住を超えた趣味嗜好の購買活動ですから、どの業界よりも「理屈抜きに人の気持ちが動いた時に」商いが成立するわけです。北川さんの言葉からは「百貨店への愛」を感じます。

【北川】300年以上かけて、人の心を動かす商いをしてきた会社です。それを本気で未来に残したいと思っています。これほど人の心を動かすコンテンツを持っている会社なんですから、強くできないはずはない。

私はビジネスマンなので、既にあるものをどうにかすることしかできません。ですので、0から1を作り出す人に対して憧れに近い尊敬の念を抱いています。0から1を生み出したクリエイターたちが生み出したものを持ち寄り、百貨店という舞台を通じて資本が環流され、さらに次のクリエーションが生まれる。それを考えると、百貨店の持つ可能性の素晴らしさに震えますね。こうした場を次の時代につなげて行かなくてはと、青臭く考えています。

■インタビューを終えて
北川さん、ありがとうございました。人の心が動く時、商品が動きます。そして百貨店で人の心を動かすのは、熟練の接客であったり、豪華絢爛な売り場の雰囲気だったりします。そんな百貨店の一番根っこにある目的はいつも、館(やかた)と、商品と、店員さんと、お客さんが通じ合うこと。データ活用はそのための有効な手段です。効率化して手間やリードタイムを縮めるのか、コミュニケーションをリッチにして新たな購買意欲を生み出すのか。いずれにしろ、その取り組みはとても楽しそうです。北川さん、これからいろいろな百貨店の景色を見せてくださいね。(原田博植)
原田博植(はらだ・ひろうえ)
株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 アナリスト。2012年に株式会社リクルートへ入社。人材事業(リクナビNEXT・リクルートエージェント)、販促事業(じゃらん・ホットペッパー グルメ・ホットペッパービューティー)、EC事業(ポンパレモール)にてデータベース改良とアルゴリズム開発を歴任。2013年日本のデータサイエンス技術書 の草分け「データサイエンティスト養成読本」執筆。2014年業界団体「丸の内アナリティクス」を立ち上げ主宰。2015年データサイエン ティスト・オブ・ザ・イヤー受賞。早稲田大学創造理工学部招聘教授。

構成=大井明子 撮影=岡村隆広