では、先に述べた「女性の起業は、実現率は高いが廃業率も高い」のは事業計画の完成度が低く、組織づくりが下手なためなのだろうか。栗原さんは、女性は事業運営に失敗して廃業するのではないと主張する。
「女性は『貯金の300万円まで』『2年間だけ』『家族に迷惑をかけない範囲で』などと、比較的制約のある中で起業することが多いよう。DATA.1で女性の黒字基調が高まるのは、早期に廃業する女性が多いため残った企業の業績が良くなることが一因。事業継続の見極めが早いことは悪いことではありませんが、男性のようにもう少し踏ん張ることができれば、成功できるのに……そんな女性が多いですね。
これらの問題を改善するためにも絶対に必要な能力が、経営者のプレゼン力。起業するにあたり、まず説得しなければならないのが家族、そして従業員やビジネスパートナー、資金調達のための金融機関、また販路や仕入れ先拡大のための営業先。常に経営者のプレゼン力が問われます。創業期は会社の業績を示すことができませんから、相手は経営者を見て判断します。苦手だからと他人に任せるのではなく、経営者自ら話すことが大切。プレゼン力は鍛えて伸びる力。起業したいなら意識して鍛えてほしい能力ですね」
話をまとめると、経営者に向き、不向きは「ない」ということになる。ただ、起業を目指すのなら、ビジョンを明確にし、経営者力、プレゼン力を身につけることができれば、大きな強みとなるようだ。起業家を目指すなら、まずは頭の中を改革し、経営者として物事と向き合う習慣を身につけたい。
【1.明確なビジョン】
起業して何を目指すのか、目的を設定することはとても重要。人に事業を説明するときも、自分が道に迷ったときも向かうべき方向を示してくれる羅針盤となる。
【2.経営者力】
経営者力はリーダーシップ力。経営におけるリーダーシップ力はチーム力をいかに引き出せるか、いかに強い組織をつくり上げられるかにかかっている。
【3.プレゼン力】
経営者の基本の「き」。家族の説得、人材集め、金融機関への事業説明などプレゼンの場は多々ある。苦手だからと尻込みせず、プレゼン力を高める努力を。
日本政策投資銀行 常勤監査役。一橋大学卒業。M&Aや財務、ヘルスケアファイナンス等を経て、同行初の女性役員に。赴任先のスタンフォード大学でベンチャーファイナンスを研究。女性起業サポートセンター創設者。
イラスト=たつみなつこ