「私、試されてますよね?」
「大西さん、今度のお見合い、いったいどうなってるんですか」「えっ、何がですか?」「いつもはカフェでお見合いじゃないですか。なんで今回は食事なんですか?」「いやぁ……」「これって、試されてますよね? 明らかに」「な、何をですか?」とぼけてみたが無駄だった。
「試されているとしか思えない。マサユキさんは私の食べ方を見ようとしてます」「うーん……オムライスとか選んだらどうですか。スプーンだけで食べられるから楽ですよ」「この店、フレンチですよ!しかも超一流の。すごく会いたかったのに、会う気なくなりました」
無理もない。このお見合いはまるで面接官に審査されるような形になっているのだから。仕方なく私は続けた。「実はマサユキさんのおうちの方針があり、ナイフやフォークも満足に使えないような人だと、お嫁さんとして認めてもらえないそうなんです」
「……なるほど。家庭の事情ということですね。正直、気分が悪いですけれども、本人の意思によるところだけではないのなら会ってみます」なんとか、お見合いは実現することになった。
「ごめんなさい、分かりません」
お見合いに選ばれた場所は、銀座の高級フランス料理店だった。
「カオリさん、お見合いの申し出を受けてくれて、ありがとうございます」「いえ、こちらこそありがとうございます。えっとあの今日のお食事はどうしましょう……」と、カオリさんが口を開いた時、ウェイターがやってきた。「ご予約されたお料理を、これからお持ちしてもよろしいでしょうか?」メニューはすでに決められていた。
1品目がやってきた。一度聞いただけでは頭に入らないような料理名だ。そもそも使われている食材さえ、何だか分からないものが混じっている。
突然、彼女は椅子をスッと後ろに引いた。そして「ごめんなさい」と、皿の上の料理におでこがギリギリ当たりそうなくらいまで頭を下げた。
「カオリさん?」「私、これをどうやって上手に食べたらいいのか分からないんです。このままお食事を続けると、マサユキさんに恥ずかしい思いをさせてしまいます」
この後2人はどうなったのかというと……なんと半年後に結婚をした。後日、カオリさんは、マサユキさんの心を動かした“トリック”について教えてくれた。