いまできることだけを考えて

考えてみれば、それまでの私も“いまできること”を何より大切にしてきました。

この社会の中で長く働いていると、仕事に追い詰められることもあれば、子育てで大きな問題にぶつかるときもあります。けれどそんなときに最も避けるべきは、いま悩んでも仕方のないことにとらわれて、身動きが取れなくなることです。

例えば子育てや介護をしながら仕事をしていると、全部が中途半端になってしまうんじゃないかと真面目な人ほど悩むものです。職場に迷惑をかけているんじゃないか、自分は子どもにとって良い母親だろうか……。

でも、悩まなくていい。後輩の女性にはよくそう言ってきました。同じように悩むなら、与えられた環境の中でどうしたら良い仕事ができるか、良い親になれるかを考えればいい。本当は150の力を持っているのに、いまは仕事と家庭を両立させるために100の力しか出せないかもしれない。でも、それでいい。いつも100パーセントの環境で仕事をできる人なんていないし、悩んでいるとその100の力だって50になってしまう。

私はこれまでずっとそうやって働いてきましたし、それが正しかったと思っています。

そしていま振り返るとこの本に出会うことで、そんな自分の生き方を言葉にしてもらった気がするんです。それは私にとって本というものに、人生を支えられた初めての体験でした。

●好きな書店
ネット

●好きな読書の場所
通勤電車、お風呂など

●好きな作家
今野 敏、マイクル・コナリー、宮部みゆき、塩野七生

村木厚子
1955年高知県生まれ。高知大学卒業後、78年労働省(現・厚生労働省)入省。障害者支援、女性政策などに関わり、雇用均等・児童家庭局長などを歴任。2009年郵便不正事件で逮捕・起訴されるも、10年9月の裁判で無罪確定。13年7月から15年10月まで、厚生労働事務次官を務めた。著書に『自分の「ものさし」で生きなさい』(酒井雄哉氏との共著)などがある。

構成=稲泉 連 撮影=岡村隆広