親しくなればなるほど、言いたいことが言えなくなる。嫌な思いをさせたくないと思う。でも、それって本物の気遣いなのだろうか。
似合っていなければ絶対に薦めない
知的でりんとしたスタイルが人気のアパレルブランド「セオリー」。銀座にある旗艦店には、日々多くの女性が訪れる。店員に話しかけてもらいたい人。あるいは、放っておいてほしい人。それぞれの要望に合わせて接客し、購入につなげるのがプロの手腕。店長の吉田奈緒子さんは、客が求める接客スタイルを、瞬時に読み取る。
「いらっしゃいませ、と声をかけたとき、目を合わせてくれるかどうかでアプローチの仕方を決めます。目を合わせない方の場合はそれ以上話しかけずに、顔を上げて何か聞きたそうなそぶりをした時点で、声をかけます」
そして、購入につながる最大の局面は試着時。ここまできたら買わせたい、そう思うのが売るほうの心理かと思いきや、「似合っていないと思えば、その商品は絶対に薦めない」のが吉田さん流。「お仕事用にも着まわすことを考えたら、そちらよりもこちらでは」など、やんわりかつ的確に伝える。
「今日はやめておきましょう! と言うこともあります。そのほうが、お客さまの立場になってアドバイスしているのだと、伝わるはずですから」
売ることより、お店のファンをつくることを第一に考える。常に予算比120%をクリアする実力派店長の目下の課題は、自分と同じ目線で接客できるスタッフを育てることだ。
■好きなことば
「不言実行」
■リラックスするとき
休みの日に家族や友人とゆっくりと食事をしながら会話をするとき。
■朝ごはん
「メゾンカイザー」のパン、プレーンヨーグルト、フルーツ、コーヒー。
■好きな手土産
銀座の老舗「空也」のもなかは上品な甘さがツボ。手土産に喜ばれる。
Theory銀座店店長。21歳から派遣社員として勤務。2006年に正社員として入社。Theory青山店勤務を経て、Theory Men有楽町マルイ店オープン時に副店長に。路面企画・立案にも携わる。10年から現職。33歳。
撮影=松岡敦飛