ネパールなどで人身売買被害に遭った女性たちに化粧ワークショップを催し、化粧を通じて自信と尊厳を取り戻すきっかけづくりと雇用創出に日本と海外で奔走している。
ネパールの、主に人身売買被害に遭った女性たちに向け、化粧ワークショップ「コフレ・プロジェクト」を通した自尊心の回復と、ナチュラル化粧品ブランド「ラリトプール」の生産で雇用創出に取り組む向田麻衣さん。自らの意思に反して働かされ、救出後も表情を無くしていた女の子や長年過酷な状況で働きづめだった年配の女性が、化粧を施した自分の顔を鏡で見つめてほほ笑む。そんな光景がワークショップでは繰り広げられる。
「もちろん、化粧で世界がすっかり変わるわけじゃない。だけど、場合によって世界を変える力にはなると思います」
尊厳を奪われた経験から、自分自身を粗末に考えてしまう女性もいる。しかし、きれいになった自分の姿で「やり直せる」という気づきを得たら、次へ進む原動力になる。それは大きな力だ。
ネパールとの出合いは高校の講演会で聴いた故高津亮平さんの話に感銘を受けたこと。高津さんはネパールでさまざまな仕事をしていた人だった。アルバイトをしてお金をため、両親と学校を説得し、2年後に17歳で、初めてネパールの地を踏んで圧倒された。そのとき胸に刻んだネパールへの思いを今も大切にしている。
向田さんは自ら冗舌に語らず、行動で示すタイプだ。「なぜ、ネパールで?」「なぜ、化粧のプロジェクトを?」と、よく尋ねられるという。
「出会った人たちのために、自分ができることをやる。それだけです」
彼女はシンプルにこう答える。具体的なプロジェクト内容や製品の説明は雄弁だが、「なぜ?」という問いには慎重に構える。「なぜ?」を問う暇があったら少しでも汗を流して動く。それが向田さんの誠実さなのだろう。その理由の一つらしきエピソードが著書『“美しい瞬間”を生きる』にある。大学時代、つらい恋愛をして傷つき、ぼうぜんとしていた彼女の自尊心を支えたのは、化粧をして髪と服を整え、外に出かける行為だった。そのうちに心が回復し、もう一度大学で学び直すという選択をした。後にアジアのフィールドワークで「お化粧がしたい」「きれいになりたい」という声を聞いたとき、自分の経験と響き合うものがあったはずだ。“発展途上国”に不要な文化や価値観を持ち込む危険性を念頭に置き、最初は躊躇したが、最終的に「確実にニーズがある」とプロジェクトを実行した。「なぜ?」と問い続けるより、今、支援を求めている人がいる場所へ。