世界一の年間製作本数を誇る巨大なインドの映画産業。とにかく「歌って踊る」イメージが先行するインド映画だが、近年はじっくりドラマで魅せるタイプの作品が増えてきた。特徴的なのは、『マダム・イン・ニューヨーク』など、女性の生き方にフォーカスした作品のヒットとクオリティの高さ。男社会だったインドの映画業界はまさに変革途上にあり、力のある女性監督の活躍が目立ってきている。10月24日公開の映画『マルガリータで乾杯を!』のショナリ・ボース監督もそんな1人だ。

『マルガリータで乾杯を!』は、19歳の女子大学生が成長する過程を通して、障害者の教育、性の問題に切り込み、トロント国際映画祭などで賞賛を浴びた。インドは法律で同性愛を犯罪と見なすなど、まだまだ保守的な社会。公開までには時間を要したという。

ショナリ・ボース監督。1965年インド・コルカタ生まれ。短編映画やドキュメンタリーの監督を経て、1984年のシク教徒虐殺事件を取り上げた『Amu(アム-)』(日本未公開)で2005年に長編劇映画監督デビュー。『マルガリータで乾杯を!』は2014年トロント国際映画祭でNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞。

映画の主人公・ライラは、脳性まひで生まれつき体が不自由だが、障害をものともせずアクティブに大学生活を謳歌する少女。やがて、彼女を支える母親の手配でニューヨークの大学への編入学が決まり、2人は渡米する。ニューヨークでライラが出会ったのは、目の不自由な活動家の女子学生。親密になった2人は共同生活を始めるが、インドに帰った最愛の母が末期ガンに冒されていることを知り――。

まさに山あり谷ありのストーリーだが、笑顔を絶やさず人生を切り開く母と娘が潔く、すがすがしく描かれている。取材場所に現れたボース監督もまた、映画に登場する女性たち同様、朗らかでパワフルな人だ。

「主人公が障害者であることを忘れてしまうような映画を撮りたいと思ったんです。若い人たちは傷つくことを恐れてパーフェクトを目指そうとしますが、まずは自分の心の傷や苦しみを受け入れること。障害を受け入れ、同性愛者であることを受け入れ、母の死を受け入れる。それができれば心穏やかに生きていけるということを描きたかったのです」