「実行力100%」
「できるか、できないかではない。やるか、やらないか、です」
そう彼女は繰り返す。驚くことに、本書には、働く女性として道を切り拓いてきた、時代や社会に対して想う悲壮感はなく、困難に打ち勝つための秘儀もない。ひたむきに強い意志と、しなやかに優しい意思があるのみだった。
――傍観者の批評は無視する:みずから考えない人、みずから行動しない人、つまり傍観者は物知り顔で「批評」する。そんな雑音に自分のやる気をとられる必要はない。聞き流し、放っておき、自分の仕事をしっかりやるだけ。(第1章「仕事は行動がすべて」より抜粋)
ソーシャルネットワークで、個人の発信力が高まる今の時代、あらゆる人が「批評家」になってしまう危険がある。自分自身は何もしなくても、何の経験もなくても、溢れる情報を流し見するだけで“知っているつもり”になっている、という危うさ。同時に常に他人の目を気にして、他人からどう思われるかが、“自分の幸せの基準”になってしまうという無意識の現実。
スマートフォンもパソコンもなかった時代でも存在した、傍観者の「批評家」。自分の中に存在する「他人からの目を気にし過ぎる自分」の存在、そういった意識を常に消しながら、木全ミツは働いてきたのだった。
――「前例通りになんてやらないのよ」:新しいポジュションを得たとき、「前の方はどのようにされていましたか?」と前例情報を集めるが、ミツはしない。「自分の頭で考えて、いちばんよい方法をとればいいだけ」(第4章「ビジネスでこそ親友をつくる」より抜粋)
失敗をしない人生を送る人などいない。失敗をするかもしれないけれど、さらによりよい結果を求めて挑戦していく生き方と、失敗を恐れ、傷つくことを怖がり、失敗しないように、傷つかないようにと小さく縮こまって生きていくのとでは、生きることへの覚悟が明らかに違う。木全ミツの生き方、働き方はまさに挑戦の連続であると本書を読んで感じる。彼女自身は、目の前の仕事や任務を当たり前に、真っ直ぐ取り組んできただけのこと、とさらりと語るのだが(笑)。
2015年、78歳の木全ミツの1日は、朝4時半から始まる。5時過ぎに朝食をとり、6時から夫とのウォーキングを楽しむ。7時に帰宅、シャワーを浴び、7時半から日に50通以上届くメールの返信から仕事がスタート。会議、出張、講演会と外出も多い。私は冒頭に、彼女の印象を“鋼(ハガネ)のような人物”と表した。
だが最初から鋼のように強かったわけではない。新人時代、子育てと仕事の両立、上司になれば部下に対しての悩みや葛藤はあった。「できるか?」ではなく「やるのだ」で生きてきた結果、今も現役の彼女がいるのだと思う。“無名の偉人”は今日も明るく忙しいのだ。