金曜日、うつ病で休職していた女性が、仕事復帰を目前に解雇を言い渡される。解雇の理由は、同僚たちが1000ユーロ(約13万円)のボーナスと女性の復職の選択を迫られ、ボーナスを選んだこと。女性は社長と交渉し、月曜に再投票の約束を取りつけるが、残された週末で同僚一人ひとりを説得し、過半数を味方につけなければならない。「私のために、ボーナスを諦めて」――プライドを捨てて、あなたなら説得できるだろうか? 5月23日公開の映画『サンドラの週末』で描かれる出来事である。

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督。カンヌ国際映画祭2度のパルムドールに輝く2人の描く最新作『サンドラの週末』。主演マリオン・コティヤールが、うつ病の克服と、仕事との間で揺れるヒロインを演じる。

「この映画は、“相手の立場に立つことができるかどうか”を描いてます」と語るのは、監督のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟。カンヌ国際映画祭で2度のパルムドール(最高賞)に輝くベルギーの巨匠だ。かつて労働闘争のメッカだったベルギー東部のリエージュ近郊で生まれ、ドキュメンタリー作品で映画監督としてのキャリアをスタート。移民問題や若者の貧困など、鋭い視点で社会を切り取ってきたヨーロッパ映画界きっての社会派がこの最新作で描くのは、他者と関わることで、自分の価値を見出していく女性の姿だ。来日した両監督に話を聞いた。

リーマンショック以降のEU中小企業の現実

本作の主人公サンドラが勤める会社は、安価な中国製品との競争に敗れて経営難に陥ったソーラーパネル工場だ。経営者は、ボーナスという“エサ”で社員を釣り、その代わりに、投票によって同僚同士でサンドラの解雇を決めさせるという極端な手段を講じる。

「2008年の世界金融危機のあと、ヨーロッパの企業の経営者たちは、それまでにはなかったような方法を取るようになってきました」と言うのは弟のリュックさん。職業別、産業別に労働組合が存在するヨーロッパでは、1つの企業に複数の労組支部が存在する。しかし、中小企業となると話は別だ。

「産業によって25~50人と基準は違いますが、社員数がその基準に満たない会社は労働組合の代表を置く義務がありません。ですから、この映画に登場するような小さな工場では、経営者がより身勝手にいろいろな判断を下す傾向が強まっている。労働者は常に戦々恐々としている状態なのです」