「安全」のために遠ざかってしまった

私は国土交通省の河川環境課で、「ミズベリング」という名前のプロジェクトを担当しています。これは造語なのですが、「水辺」と「リング」、そして、水辺のリノベーションが進行形で続いていくという2つの意味があります。地域における水辺、特に河川の価値を見つめ直し、活かしていこうというプロジェクトなんです。

都市――例えば東京の水辺の姿に象徴されるように、日本の多くの都市河川は「三面張り」と呼ばれる直壁の護岸でコンクリートの堤防が立ちはだかっていたりします。そうした場所では建物と水辺が分断されていて、川と人とが遠い存在になってしまっています。

国土交通省 河川環境課 課長補佐 田中里佳さん

ただ、水辺というのは歴史をたどると、江戸時代に描かれた日本橋の浮世絵にもあるように、ヒトやモノが集まるエネルギーに満ちた空間でした。そのような魅力的な場所が都市の中に失われたのは、他でもない私たち河川行政の責任も大きいでしょう。

明治期以降の近代化と高度経済成長を経て、日本の河川行政は水害から人と財産を守るために、洪水対策を最優先に行ってきました。もちろんそのことで私たちの都市は水害から守られているわけですが、一方で直壁の護岸や見上げるような堤防の建設は、川と街を分断することにもつながりました。かつては、安全のためには仕方のないことだ――という理由を楯に、人が川から離れてしまうことを放置してきた面も確かにあったと思います。