「根回し」が足りなかった政治家

改正皇室典範が成立した後、宮内庁の長官は、天皇や皇族にその趣旨を説明している。だが、少なくとも事前に改正案が天皇や皇族の了承を得たものでないことが、天皇や秋篠宮の発言からうかがえる。

たしかに、今の社会で「根回し」は、古くさいやり方とみなされているかもしれない。だが、皇室典範の改正という天皇や皇族にとっての最重要事項について、政治家の側が十分な根回しをしなかったことは、明らかに不備である。

天皇や皇族が改正案をどうとらえるのか、果たして麻生氏は事前にそれを予想したのであろうか。予想していたのであれば、強引にそれを通すようなやり方はとらなかったはずだ。

実際、あまりに強引だったという印象が、明らかに尾を引いている。法案の中身も問題視されるものだが、その改正過程が強い批判を生んでいることも間違いない。

天皇や皇嗣こうしである秋篠宮が、今回の皇室典範の改正、とくに養子案に対して納得していないのであれば、他の宮家がそれに逆らってまで「養親」となることは難しい。それほど、天皇や皇嗣の立場は重い。国民全体が納得できる内容と進め方であったのならば、状況は大きく違ったであろう。

あっけなく潰えた麻生氏の野望

かつて総理大臣の座を射止めたにもかかわらず、民主党に政権を奪われた麻生太郎氏には、戦後の皇室制度を大きく変える皇室典範改正という大事業は、手に余るものだったようだ。

しかも、である。

今回の改正によって、女性皇族の皇族費が増額されたが、すでに〈悠仁さまでも養子でもない…島田裕巳「皇室典範改正後の"麻生太郎の親族"に国民が抱く強烈な不公平感」〉で述べたように、その恩恵を受けるのは今のところ、三笠宮家の当主となった彬子女王だけである。彬子女王は、麻生氏からすれば、姪にあたる。

なぜ、彬子女王だけが優遇されるのか、にわかにそうした批判が巻き起こった。

令和の御大礼における彬子女王殿下(2019年)
令和の御大礼における彬子女王殿下(2019年)(写真=首相官邸 from YouTube/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

こうして養子案は、改正が施行される前段階で、すでに前途多難なものとなった。養子案が麻生氏の魂胆に基づくものであるなら、その野望はあっけなく潰えたといっていい。

なぜなら、改正皇室典範が施行され、宮内庁が旧宮家を訪れ、養子となるかどうかの意向を尋ねても、どこからも養子は現れないと見込まれるからだ。皇族の生活が相当に窮屈なもので、一般国民として生まれた人間にはハードルが高すぎるからでもあるが、天皇や皇嗣が賛意を示していないことは決定的である。