会話を客観視できる「親子の会話メモ」
保育園や幼稚園に勤める先生は、日々子どもの言葉の成長をリアルタイムで見ています。それゆえ、家庭環境によって子どもたちの〈ことばの力〉が強くもなれば、弱くもなる現実を嫌というほど目にしています。
ただ、多くの先生は、家庭に原因があると感じていても、保護者との関係を悪くしないようにそれを言葉にして指摘することはほとんどありません。
それでも、私が知っているいくつかの園では、入園前にきちんと子どもの成長を最優先していることを理解してもらい、〈ことばの力〉を伸ばすために家庭にさまざまな働きかけをするようにしています。
そうした園の一つで行なわれていて、明らかに効果が現れると感じる取り組みが、「親子の会話メモ」です。
園が配布しているのが図表1のようなメモ用紙です(図は記入例)。それに、印象に残った親子の会話をメモしてもらいます。左側に親が発した言葉、右側に子どもが発した言葉を書き、どのようなやりとりだったかを文字にします。
親はそれを完成させると、言葉のやりとりを見直して、感想を書きます。子どものことを考えて声かけができていたか、それに対して子どもは何を考えて答えていたか、ここから言語による新たな思考が生まれているか……。
園長もそれを読んでコメントを記します。親のかけた言葉をほめたり、子どもの成長を喜んだり、改善策を提案したりするのです。
会話を客観視することの大切さ
どうしてこのような手間のかかることをするのでしょうか。
女性の園長先生は次のように話していました。
家族の対話を文字にすれば、そうしたことが目に見える形で明らかになるだけでなく、どのように言葉がけをしたらいいのかがわかります。それが親子の対話の質を高めるだけでなく、親子関係をも良いものにしていくのです。
定期的にこれをやると、最初は面倒だと思っている親も、次第にその効果を実感し、進んでメモをするようになっていきます。
園長先生が指摘しているのは、自分の会話を一歩引いたところから客観視することの大切さです。これをしっかりとやっている家庭と、そうでない家庭とでは、子どもの会話や思考に明確な違いが出てきます。
1977年東京生まれ。作家。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。著書に『物乞う仏陀』(文春文庫)、『神の棄てた裸体 イスラームの夜を歩く』『遺体 震災、津波の果てに』(いずれも新潮文庫)など多数。2021年『こどもホスピスの奇跡』(新潮社)で新潮ドキュメント賞を受賞。
