子どもは大人の言葉を使おうとする
先ほどのクジャクの羽の例で考えてみてください。
もし「あの羽デカっ。マジやばいわ」の「でかい」「やばい」を別の言葉で置き換えたらどうなるでしょう。
たとえば次のように表現します。
「クジャクって自分の体よりはるかに大きな羽を持っているんだね。しかも一本の羽の中にも金や緑や青などいろいろな色があって、見る角度によって別の光り方をしているよ。まるで宝石みたい。羽にいくつもある目の形をした模様は、敵を脅かしたり、メスに『好き』って伝えたりするためのものなんだってさ。美しいだけじゃなく、生きるために必要なものなんだね」
こう言われれば、子どもはクジャクの羽根を一本一本丁寧に見ようとしますし、大きな羽根を持つことが生存戦略につながっていることを理解します。何より、大人と同じくらいの言葉でそれを語ろうとする。大人が細かな言葉で語れば、子どもはそれだけ細かく思考し、表現するようになるのです。
「イ形容詞を避ける」のはプロの文章作法
実は、イ形容詞を別の言葉に置き換えるというのは、プロの作家が必須とする文章作法の一つなのです。特に小説やエッセイの世界では絶対条件の一つです。
プロの作家は、作中で「あの山は美しかった」とか「彼は悲しんでいた」なんて表現はしません。こうした粗い表現では、読者の心の深いところに届かないからです。
だから、プロの作家は「美しい」とか「悲しい」といったことを、もっと細かな別の言葉で表現しようとする。たとえば、「山は春の暖かな夕映えをまとって輝いていた」とか「彼は地にひれ伏し、声なき声で慟哭した」といった表現です。頭を悩ませながら、その表現を探し当てるのが、執筆という行為なのです。
程度の差はあれど、これは会話にも通じることです。イ形容詞を避け、細かな言葉で語りかけることができれば、その言葉を受けた相手は物事を微細に把握し、その次元で思考し、表現しようとします。
むろん、会話でイ形容詞をすべて排除するのは不可能です。なので、先に述べたように安易に口にしがちな「やばい」「えぐい」「えもい」といった粗いイ形容詞を別の言葉に置き換えるように心がけてみてはいかがでしょうか。
これをするだけで、間違いなく親子の会話はずっと豊かなものになるはずです。