悪いことをやった意識がない

そして我が身を振り返った。父親としての威厳が足りないのだろうか。Kが謝れないのは、私の責任なのかも知れない。

このままではKは、謝れない大人になってしまうのではないか。

私は、教育心理学や発達心理学を研究する東京大学名誉教授の秋田喜代美先生に不安を吐露した。

「おもちゃを投げたり、歩道を走ったりすることは、大人にとっては悪いこと、危険なことですよね。でも、幼児にとってはどうでしょう。感情のままに身体を動かしただけ、と考えることもできます。自分では悪いことをやった意識がないから、『ごめんなさいは』と言われても心に響いていなかったのかもしれません」

それは幼児だけではないだろう。非を自覚していないのに謝罪を求められたら、大人だって反発したくなる。秋田先生の指摘は、3歳児もひとりの人格だという当たり前の事実を私に突きつけた。

秋田喜代美先生
撮影=プレジデントオンライン編集部
秋田喜代美先生

相手に共感するから素直に謝れる

「2歳、3歳は自我が芽生える時期です。みんなに『私』を認めてほしい。自分の意志でやったことだからお父さんに『ごめんなさいは』と言われても、謝りたくないという気持ちもあるのではないかと思います。もちろんお友だちを傷つけてしまうようなことがあれば、謝らなければなりませんが、今回は物を投げたことを問題にされているのですよね。

ただし、子どもの行動には必ずことわりがあります。“Give kids reason”――つまり、なぜ、そんなことをしたのか、子どもの言い分を傾聴する必要があります。

その上で、なぜダメなのか丁寧に伝えるようにしてみてください。その際に注意すべき点は、その子の属性や特性を持ち出さないこと」

幼児における属性や特性とは何か。秋田先生は、疑問をわかりやすく解説する。

「『お兄ちゃんなんだからガマンしなさい』とか『女の子だからダメ』と言われると子どもは反発します。子どもが自分個人に親身に寄り添ってくれているのではなく、役割として叱られていると感じるからです。

それよりも『投げたら、おもちゃが痛いんじゃないかな』『そんなことをしたらお母さん悲しいな』と伝えると、子どもは自分がやったことで誰かが傷ついたり、悲しんだりすることを理解します。自分がやったことで困ったり、悲しんだりする人に共感し、心が痛むからこそ、素直に『ごめんなさい』と謝れるようになるのです」