3歳児なのに「おっぱい大好き」は普通なのか
3歳児Kは、おっぱいが大好きだ。
「おっぱいぱいぱいおっぱぱい♪ おっぱいぱいぱいぱおっぱぱい♪」
Kは、お気に入りのトーマスの主題歌のメロディに合わせてオリジナルソングを機嫌よく口ずさむ。
Kの1日は、おっぱいからはじまる。起床し、母に抱かれてリビングにやってくる。リビングで発する一言はいつも同じだ。
「トット(父親である私のこと)、ミルク」
牛乳を入れたマグを受けとったあとの行動も決まっている。当たり前のように母のシャツに手を突っ込んでおっぱいを触りながら、30分ほどかけてゆっくりと牛乳を飲む。
おっぱいを満喫する満ち足りた顔を見て、ふと思う。母に密着し、おっぱいを触りながら母乳を飲んでいた頃を、懐かしんでいるのだろうか。
微笑ましい光景ではある。しかし問題は妻の仕事だ。
Kが密着する間、妻は身動きが取れず、出勤の準備ができない。母が離れるとKは怒って「ママ、ママ」と泣きながら叫び続ける。一度、起こす前に出勤用の洋服に着替えたが、Kは癇癪を起こした。
「ママ、ねんねの服にして!」と母のパジャマを押し付けた。
家でくつろぐ普段着でいてほしい、という気持ちなのだろうか。
妻は、保育園に向かうKを玄関で見送ったあとに慌ただしく準備するのだが、どうしても出社が遅れがちになる。どうすればいいのか。
「それは自然なこと」
そもそもおっぱいに触れるのは、3歳児として自然なのか。Kが離乳したのは、1歳半。すでに2年以上が過ぎている。
育児の参考にしている『定本育児の百科』(岩波書店)をめくった。生まれてから小学校入学まで、月齢や年齢に合わせた育児の方法や、親の悩みに対する助言が詰まった指南書だ。
乳離れできない3歳児について直接の言及はなかったが、9カ月から10カ月の章に〈母乳がまだやめられない〉という項目があり、母親が働く家庭を想定し、こう書かれていた。
〈母親との接触の時間がみじかいのだから、そのみじかい時間に、せいぜい母親の愛撫を経験させたい〉
それは3歳児でも同じだろう。だとしたら、朝に母子が密着する時間は、大切にすべきなのではないか。だが、現実に、慌ただしい朝の30分は重い。
「おっぱいはダメ」と単純に諭して、おっぱい断ちすればすむ問題なのだろうか。それで“母親の愛撫”が不足してしまうのではないか。
東京大学大学院教育学研究科教授で、乳幼児の心身の発達について研究する遠藤利彦先生は「それは自然なことなんです」と穏やかな口調で私の不安に向き合ってくれた。



