父親に育児は向いていないのか。『安心感が子どもの心を育む』(小学館)を書いた東京大学大学院教育学研究科の遠藤利彦教授は「そんなことはない。育児に悩む父親は、子供に不信感を抱かせる行動をしているのかもしれない」という。3歳の息子を育てる、ノンフィクションライターの山川徹さんが聞いた――。
父親に背を向けて顔を覆う子ども
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「ママがいい!」と叫ぶ子供の心理

3歳児Kには、口癖がある。

「ママがいい!」
「トット(父親である私のこと)、あっち行け!」

Kは、2つの言葉を事あるごとに口にする。

朝、私が寝室に起こしに行くと「ママがいい!」と叫び「トット、あっち行け」と全力で拒絶する。

私が着替えを手伝おうとしても「ママがいい!」、夕方私が保育園に迎えに行き、母の帰宅を家で待つ間も「ママがいい!」、夕食を食べさせようとしても「ママがいい!」、風呂に入るときも「ママがいい!」。私と入浴するのは、3日から5日に一度くらい。寝る際も母親が抱っこしないと寝ない。何度か寝かしつけに挑戦したが「ママがいい!」と頑なに言って聞かなかった。もう諦めて妻にまかせっきりになっている。

「ママがいい!」「ママがいい!」「ママがいい!」……。そして「トット、あっち行け!」。

そのたびに私は軽く傷ついた。けれど、それはいい。まずいのは、増え続ける妻の負担だ。

収入が不安定で仕事も不規則なフリーランスの私に対し、妻は会社員だ。妻がいるからこそ、落ち着いた子育てができている。せめて罪滅ぼしに、時間の融通が利く私が、保育園の送り迎えや、夕食の準備などを引き受けているつもりなのだが――。

「自信を喪失する必要はない」

先日、妻の帰宅がいつもよりも遅くなり、Kは「ママはいつ帰ってくるの?」「ママはまだ?」「駅に着いたかな」と3分おきくらいに繰り返した。しまいには「ママがいい」とぐずりはじめた。

べそをかく我が子を前に、父親としてどうしようもない無力感に打ちのめされた。

子育てにもっと積極的にかかわるにはどうすればいいのか。Kに信頼してもらうには何が足りないのか。

「自信を喪失する必要はないと思いますよ」

乳幼児と養育者の間に形成される「アタッチメント」を専門とする東京大学大学院教授の遠藤利彦先生は、悩む私を勇気づけるように穏やかに語った。

「お子さんにとって、それだけお母さんが大切な存在だということです。だからお母さんが家にいたり、もうすぐ帰ってきたりするのが分かっているときは、お母さんが一番なのでしょう。仮にお母さんがいなければ、お父さんが一番になるのではないですか?」