レジ袋に入れた遺体はクローゼットの中
経緯を振り返る。
事件は未受診女性の孤立出産だった。
女性は妊娠を同居家族にも話すことができておらず、家族が不在だった1月24日、自宅の浴室内で陣痛とともに赤ちゃんが出てきた。しかし、赤ちゃんは息をしていなかったという。
25日早朝、女性は病院の妊娠相談窓口に「死産した赤ちゃんの死亡届の出し方を調べていたら、だんだん心配になって」とメールを送った。件名は「助けてください」。
26日、メールと電話で対応した産婦人科医は、出産のプロセス、赤ちゃんの様子などを聞き取り、死産だった可能性が極めて高いと判断した。
医師は怖がる女性を説得し、女性に代わって地元の県警に状況説明をし、兵庫県警への連絡を依頼した。
ほどなく連絡を受けた神戸北署署員が女性宅で遺体を発見する。遺体は自室クローゼットの上段にレジ袋に入れて置かれていた。同日、女性は警察に連行され、数時間後の27日未明に死体遺棄容疑で逮捕された。
産婦人科医「機械的な逮捕だ」と批判
2日後、県警も想定していなかった事態が起き、展開はこじれ始める。
1月29日、通報した医師、蓮田健氏が兵庫県庁記者クラブで「死体遺棄容疑は該当しない」「ほぼ即日の逮捕は理不尽」と抗議の会見を行い、神戸北署に抗議書を持参したのだ。この会見について、地元テレビ・新聞は広く取り上げた。
抗議書の要旨は次の3点だ。
・証拠隠滅や逃亡可能性が低いにもかかわらず、出産直後の女性の身柄を拘束したこと
・女性は保護されるべきだったこと
蓮田氏は、女性が産婦人科未受診だったために、警察が機械的に逮捕したのではないかと指摘した。
蓮田氏は熊本市にある医療法人聖粒会慈恵病院の理事長を務める。同院は全国に先駆けて、赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)と内密出産の受け入れを行ってきた。
孤立出産した女性や、孤立出産直前で来院する女性と多く接している。過去には、孤立死産した女性が即日逮捕され、実名報道されたのちに不起訴処分になるという不幸な事案に立ち会った。
出産直後で心神が弱っている女性を、簡単な聞き取りだけで逮捕する判断にも蓮田氏は不信感を持った。未受診で孤立死産した女性の事件は珍しくない。本件が「未受診+孤立死産→即逮捕」の悪しき先例となることを避けなくてはならない、と考えた。