良質なインプットの三つの条件
【辻】最近、おうち英語を始めようと考えているご家庭から「“良質なインプット”ってどういうものですか?」と質問を受けました。尾島先生なら、なんと答えますか?
【尾島】リスニングに使うDVDやCDなどは、どのようなものが効果的なのか、ということですね。質の良いインプットには、大きく三つの条件があります。
まずは、内容をざっくりとでも理解できること。教材のお話の大枠がつかめればOKです。次に、本人のレベルより少し上のレベルであること。8〜9割は理解できるが1割ほどは知らない単語など、わからない要素、プラスで学ぶ要素が入っているものですね。ボキャブラリーが増えていきやすく、おすすめです。知らない単語を学ばせるには、ビジュアルの情報があるDVD教材などを使うと良いでしょう。
【辻】知らない単語が聞こえても、ビジュアルがあれば推測できますもんね。
【尾島】三つ目の条件は、子供が夢中になれる内容であること。興味があることは本人も知りたいと思うので、習得が速いんです。①ざっくり内容の大枠が理解できて、②わからない部分も少し含まれたちょっとだけ上のレベルのもので、③さらに本人が見たいもの。これが最強です。
【辻】実際、実践家庭の親はみなさん、それを探すのに必死です(笑)。私の経験上、本人が見たいと思うものと教材のレベルを合わせることはすごく難しいなと感じていて。レベルが合っている教材を与えても、普段から刺激的な動画に慣れている子は地味な英語教材だと見てくれないんですよね。一方、子供が好きだからと、いきなりマインクラフトや大リーグの動画を見せても英語が難しすぎるんです。
【尾島】ネイティブ向けの番組は難しすぎて理解が追い付かないことが多いんです。また、YouTubeなどは種類が豊富な半面、レベル感がわかりづらいのが難点。子供のレベルより少し上、という適切なものを選ぶのは難しいでしょう。バラ売りよりは、セットになっていてレベルごとに分類された教材が、おうち英語初心者の親にはおすすめです。なかなか三つの条件が揃う教材には出合えないのが現実ですよね。
【辻】そこは親のマネジメントにかかってきますよね。①と②の要素を教材で、③の要素をYouTubeで、と併用しながら、なんとか試行錯誤しているご家庭が多い印象です。
私は、レベル別のアニメ動画と理解度をチェックするクイズが組み合わされた、子供の英語オンライン教材である「Little Fox 英語童話ライブラリー」(3歳から小学6年生程度向け)をおすすめします。テーマが幅広いので、三つの条件を満たす“わが子の理想のインプット教材”が見つかるかもしれません。実際に私の周りでも、活用しているご家庭が多いです。
リーディングは音と文字に慣れてきた段階でスタート
【辻】わが家では、英語絵本の読み聞かせをスタートに、英語の音源かけ流しやDVD視聴を行ってきました。就学頃からは、受け身の取り組みだけでなく英語の多読を始めました。日本語でもそうですが、読書から得られるアカデミックな知識は多いし、ボキャブラリーの定着もしやすいのを実感しています。尾島先生の研究から見ても「多読」は、おうち英語に必要ですか?
【尾島】日本語を覚えるときも、好きな絵本やマンガ、図鑑などからボキャブラリーを増やしていきますしね。ただ、おうち英語で文字を覚えるのは、あくまでも音声インプットのあとになります。リスニングのベースを築いたうえで始めるなら効果があるでしょう。
いきなり「読んでみて」と子供に絵本を渡すのではなく、親が英語の絵本を読み聞かせるところから始めると良いでしょう。自分の発音に自信がない親御さんもいると思いますが、それまでに「かけ流し」でネイティブの発音を大量に聞かせているなら、読み聞かせの発音がきれいじゃなくても大丈夫です。同じ絵本を何度も読んでいれば、このスペルはこの音だったなと子供もわかってきます。そうして自分でもちょっと読み出すようになってくるのが、リーディングの学習を始める「サイン」ですね。あとは、レベルが低いものから徐々に始めていくことが大事です。
【辻】ちなみに多読を始める際、多くの子供が“簡単な英語も読めない”状態でつまずくのですが、「英語のつづり」と「音」の関係性を学ぶ「フォニックス」を取り入れたほうがいいのでしょうか?
【尾島】小学生くらいになれば、フォニックスは効果があると思います。ローマ字を習うと日本語の影響が非常に強くなるので、学校でローマ字を習う小3くらいまでに始められるとより良いでしょう。
【辻】ローマ字を読めるようになってから始めると、「orange」を「オランゲ」と読んだりしますもんね(後編につづく)。
※本稿は、『プレジデントFamily2025夏号』の一部を再編集したものです。




