負担を感じたら思い切って延期を
【辻】周囲が抱える「おうち英語」での悩みを聞いていると、リーディングを早く始めすぎてうまくいっていない人が一定数いるように思います。この子は今やるよりも、1年後、2年後にやるほうが親も子も負担なく進むんじゃないかなと感じることもあります。
【尾島】たとえばリーディングを試してみて「早すぎたかな」と思えば延期しても全然いいんですよ。そして数年後に再トライする。実際、そのようにして長く続けられているケースが珍しくありません。
【辻】「まだ早かったかな。でも根性でがんばろう」と親が無理して続けると、子供に負担がかかって英語嫌いになるので続けられなくなる。そんな話を聞くこともあります。長く続けるためには、一度休む勇気も必要なんですね。
【尾島】そのタイミングの見極めは、親の役割の一つですね。
リーディングに関しては、時期を急がなくてもいい。中学以降にがんばっても十分習得が可能です。むしろ母語の読解力がついてからのほうが、英語のリーディング力は伸びやすい面があります。日本人はリスニング、スピーキングは苦手な人が多いけれど、リーディングは得意な人が多いですから心配しすぎないで大丈夫です。
「中学受験」で英語を減らしても挽回は可能
【辻】延期しても、休んでも大丈夫。そう聞けて、安心する親は少なくないと思います。中学受験のために一時的に英語学習を中断する人も一定数いますから。
【尾島】幼少期におうち英語を始めて、リスニングやスピーキングをスキルとしてある程度体得した状態であれば、小6の数カ月、英語学習をゼロにしたとしても、習得してきた英語力はなくならないでしょう。自転車の乗り方を体が覚えているような感じです。
【辻】実際、幼少期からおうち英語をやっていて受験期にいったんやめても、中学から挽回していく方はいらっしゃいますね。
【尾島】もちろん、取り戻すには多少時間がかかると思いますが、ゼロから身につけるよりは、取り戻すほうが圧倒的に速いですね。
スピーキング力を身につけるには?
【辻】スピーキング力をつけるためにオンライン英会話を始める人も多いですが、やったほうがいいのでしょうか?
【尾島】スピーキングは、アウトプットの一つですよね。アウトプットは知識が大量にインプットされて、ようやく出せるものです。言い換えれば、確かな土台(リスニング力)があって、そのうえで喋りたい相手がいれば、どこかの段階で自然と喋り出します。
ですから、おうち英語ではまずはインプットさせることを目指して、喋れそうだなというときに喋る機会を設けたほうが理にかなっていると思います。子供に喋らないといけない必然性や、喋りたいモチベーションがあることも、スピーキング力を伸ばすためには必要になります。
結局、子供は同世代の子供と一番喋りたいんです。自然と英語でほかの子と触れ合えるようなイベントやサマースクールなど、子供が自ら喋りたくなる場を用意できるとモチベーションが生まれるきっかけとなって良いでしょう。そのような機会への参加が難しく、大人の先生と話す時間しか用意できない場合は、子供が「好き」「お喋りしたい」と思えるオンライン英会話の先生を探すことです。
【辻】おうち英語の中でもスピーキングの力は、ものすごく個人差が大きい印象があります。
【尾島】私の研究データでも、何千時間も英語に触れてきたのに発話に至っていないというケースがあります。ただし、だからといって無駄になるわけではない。その子は聞く力はあるのです。リスニングはすべての土台ですから、それがあるだけでも非常に価値が高い。リスニングさえできれば、子供のときにスピーキングができなくてもあとで伸びる可能性はあります。たとえば海外に行ったときなどにも、どんどん吸収できるはず。子供自身が強く「話したい」と思ったときのスタート地点が高いので、有利だと思います。
なので悲観せずに「継続」してほしいですね。



