親の英語力がなくても「おうち英語」が成立するワケ
【尾島】10年ほど前、小学校6年生の英語授業を見学した際、驚くほどスピーキングが上手な女子児童がいました。聞けば、その子は帰国生ではないし、親も英語ができるわけではない。じゃあどうやって英語を習得したのかと聞くと、幼少期から自宅で動画教材などを使っていたと言うんです。
【辻】いわゆる「おうち英語」ですね。
【尾島】それを機に、英語力の高い小学生を対象に、家庭でどんな英語学習をやっているかを研究するようになりました。すると、小3の時点で、大学までの英語授業で受けるインプット量(約1000〜1200時間)を遥かに超えている子がいた。それが、決して珍しい例ではなかったんです。
【辻】先生が会ってきた、海外暮らしの経験がないのに「英語力の高い子」には、どんな共通点がありましたか?
【尾島】まず、乳幼児期から家庭でDVDやCDなどの教材を使って大量に英語を浴びせている(「かけ流し」といわれる)。圧倒的に英語への接触時間が長いんです。
【辻】近年はオンラインで教材や絵本が手軽に手に入ることもあり、おうち英語を始める人が増えてきましたね。
【尾島】親は教材となるDVD、CD、読み聞かせのための絵本などを用意して、家の中に英語が聞こえてくる「環境」をつくるところから始める……というのがおうち英語の一般的なスタイルですね。つまり、親は全然英語ができなくても成立するのが「おうち英語」。親が先生になって子供に教える必要はありません。
【辻】親が唯一の先生になると、子供の英語力は親の英語力の上限で頭打ちになってしまうけれど、主なインプット源が本や映像だからこそ、いずれ子供が親の英語力を追い抜いていくことができるのが「おうち英語」のひとつの魅力ですよね。わが家の子供(小5と小3)は、海外の人と不自由なくコミュニケーションがとれるレベルで、先日も一緒に海外ドラマを見ているときに、私には聴き取れないフレーズで爆笑していて。親がついていけない、ということが成長とともに増えてきました。
【尾島】ええ。そうやって小さな頃から英語と長時間接触してきた子供たちは、特にリスニング力が優れていますね。中学から学校で英語を習い、仕事で英語を使いこなしている大人は今の日本にもたくさんいますが、おうち英語で学んできた子供たちは将来、さらに高いレベルの英語力を獲得できるポテンシャルが十分あります。
土台となるリスニング力が身につくまでに2、3千時間
【尾島】子供の英語習得はリスニング力が土台。音声を聞いて理解できなければ、「話すこと」も「読むこと」も十分にはできません。おうち英語でそのリスニング力が身につくまでに、2000〜3000時間かかると私は考えています。これは、小学校から大学までの英語授業時間数の2〜3倍ですから、非常に長い時間ですね。
【辻】子供の頃にそれだけ長時間の英語接触とは、学校とはケタ違いですね。
【尾島】そうなんです。もし「がんばってやっているのに伸びない」と悩んでいるなら、その理由は、まだトータルの時間数が足りていないだけかもしれません。100時間、200時間では、まだまだインプットの量が足りていないので、英語が目に見えて上達しなくて当たり前なんです。SNSでは言語適性に恵まれた「できる子」の事例が目に入りやすいので焦りを感じてしまうかもしれませんが……。また、人によって、「もう3カ月以上も継続している」「がんばっているのに英語力が伸びているかわからず辛い」と相当がんばっているように感じる人もいれば、ポチっとDVDをつけて「これだけでいいなんてお手軽〜」みたいなノリの人もいる。生真面目にがんばってしまう人も、何も考えずにマイペースに続けられる人もいるわけです。なので、親は過剰にやりすぎるのでなく、自分にとって無理なく続けられる方法を模索するほうがいい。
【辻】長期的目線が必要ですね。
【尾島】はい。今日習ったらその分だけ話せるようになるわけではなく、時間をかけて蓄積していって、長い時間を経た結果、高く飛べるようになるのが「おうち英語」ですから。
飛躍するには、長時間のインプットを継続することが大切です。さらに個人差があるので、言語習得の適性が高くないお子さんなら、さらに長時間が必要になります。



