これからの時代は探究心がモノを言う
さて、最近ではクイズ王として人気の伊沢拓司さんや、ショパン国際ピアノコンクール、セミファイナリストでピアニストとして活躍する角野隼斗さん、メディアアーティストの落合陽一さんなど、独自の才能を開花させた開成卒業生も注目されています。生徒たちを見ていて、本当にすばらしいと思うのは、それぞれがそれぞれの探究心に従って、自主的かつ積極的に、さまざまな活動をしている点です。卒業後に活躍している人たちは、ほぼ例外なく、在学中に部活や学校行事をはじめ、勉強以外の活動に打ち込んだ経験を持っています。彼らを見ていると、これからは英語力や国際感覚とともに、個々の探究心がモノを言う時代になるとつくづく感じます。
私自身の経験を話すと、私の父親は工学系の仕事をしている人でした。私が小学校低学年のときに「理化学実験セット」をクリスマスプレゼントに買ってくれました。フラスコ、試験管、アルコールランプなどがセットになった、なかなか本格的なもので、私は薬局で酒石酸ナトリウムを購入し、その水溶液と重曹の水溶液を混ぜて、炭酸水を作る実験などをして楽しんでいました。
小学4年のときに、東京都中野区から自然豊かな千葉県柏市に引っ越したのですが、そこでは昆虫捕りやザリガニ釣りに夢中になりました。昆虫採集キットを買ってもらって昆虫標本も作りました。まあ、これは友達に「かわいそう」と言われたので、すぐにやめてしまいましたが(笑)。学習雑誌「科学」の付録も楽しみでしたね。
こうした経験の中で育まれた探究心が、その後、研究者として生きていくための原動力の一つになったのは事実です。幼少期に好奇心や探究心を育むというのは、ほんとうに大切なことだと思います。それが育まれれば、もっともっと知りたくなるので、自分自身で学ぶ力がついていきます。
よく、「毎日塾に通い、日曜日はテスト」という生活を送る小学生の話を耳にしますが、これはあまり感心できません。探究心や好奇心というのは、遊びの中から生まれてくるものだからです。勉強だけさせても「先輩や友達が東大に行くので、自分も東大へ」という、自主性のないさびしい人間になってしまいます。それではたとえ東大に入れたとしても、定型的な業務はAIが代行し、主体性が重視される時代には活躍することはできないでしょう。
探究心を他人が教えることはできませんが、子供が内に秘めているであろう興味や関心を、周囲の大人が刺激し、引き出してやることは可能です。自然の中で遊ばせること、美術館や博物館に連れていくことなど、子供の琴線に触れる機会をなるべく多く持ってほしいと思います。



