脳細胞のネットワークをつくるのは“刺激”! 知識と五感で得る感覚をどんどん子供に与えよう

【小山】私が「食事で脳は変わる」というお話をすると、多くの方たちがハッとした顔になります。塾に入れる以外にも、「子供を賢くするために自分にできることがあるんだ」と気が付いてくれるんですね。

そして、次にくるのが「うちの子はもう中学生なんですが、今からでも間に合いますか……?」という質問なのですが――。

成田奈緒子さん
成田奈緒子さん
小児科医・医師・公認心理師。
文教大学教育学部教授。子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。「子供が一生幸せに生きられるための脳作りの方法」をテーマに、保護者・教員・保育士などを対象として広く講演会、執筆活動を展開。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社+α新書)など。

【成田】中学生であっても、脳を育てるのに遅いということはまったくないです!

よい睡眠とよい栄養を与えれば、脳は問題なく健全に育ちます。

というのは、いくつになっても使われずに眠っている脳の神経細胞がたくさん余っているから。刺激を与えてあげれば、いくつになっても神経細胞同士はつながりをつくることができるんです。

【小山】私たちの脳はいつでも、いくつになっても、成長する余地があるんですね。神経細胞がつながるときに必要になるのが、DHAやEPAなどの脂質なので、私は常々、毎日の食事で積極的にとることを推奨しています。脳発達の3段階のなかでも、特にDHAやEPAの摂取を意識したほうがよいタイミングはあるのでしょうか?

【成田】やはり、小学校から中学校あたり――「おりこうさんの脳」の成長時期ですね。判断力や思考力といった高度な働きを担う「前頭葉」が成長する時期ですから、適切な刺激が少ないと、うまく伸びていかなくなってしまいます。DHAやEPAなどの脂質はもちろん、神経伝達物質の材料になるタンパク質、脳の働きに関わる亜鉛、ビタミンB群、鉄など、多くの栄養を食事でしっかりとることが大切です。

そして、脳の成長を促すための“刺激”は、栄養だけでは十分とはいえません。賢い脳にするためには、新しい知識や五感で得る感覚などの刺激も絶対に必要です。

【小山】最近は、小学校、中学校の受験も多くなって、塾や習い事に忙しいお子さんがとても多くなりましたね。

【成田】そうですね、“刺激”というと、親はすぐに「勉強しなさい!」となりがちですが、ピアノでもプラモデルでも、子供が興味を持つことならなんでもいいんです。子供が喜んで喰いつくネタを、親は目の前にどんどん差し出してあげてほしいですね。私が代表を務めている『子育て科学アクシス』(子育て支援事業施設)に来ていた、ある男の子は面白かったですよ。自宅の近所にあるゴミ屋敷のおじさんと仲良くなって、あるとき、廃棄物同然のテレビを3台もらってきたんです。それを分解して、また組み立てて……というのを夢中になってやっていました。その子はやっぱり、成長するにしたがって能力をぐんぐん伸ばしていきました。

家庭での「役割分担」と「失敗」が「社会で役立つ脳」に育てる

【小山】育脳の一環として、私は親子で料理することをおすすめしているんです。親と一緒に何かをするのも、何かをつくるのも好きな子供は多くて、それこそ夢中になってつくってくれますから。親と一緒に自分がつくったものなら、普段食べないものでも「おいしい!」と食べる子がほとんど。『「賢い脳」は脂が9割』で紹介するレシピも、忙しくても負担にならないように、できるだけ時短で簡単なものにしましたから、小学校の高学年くらいなら十分できるはず。ぜひ一緒につくって食べてほしいですね。

【成田】料理は脳にすごくいいですよ!

前頭葉がどんどん成長する時期に、何をつくるかを決めて、必要な材料を集めて、実際に手を動かす料理をすれば、まさに段取り力、思考力が鍛えられます。

料理以外にも、家庭で家事を「役割分担」することは、子供の脳育てに非常に効果的なので、私も強く推奨しています。

このとき大事なのが、お手伝いではなく、あくまで「役割」にすること。例えば料理なら、献立を決め、足りない食材を買いにいく。トイレ掃除なら、日々の掃除だけでなくトイレットペーパーの在庫管理や補充も担当する。お手伝いではないので、子供がやらなければ家族が困る。だから、責任感を持つようになるし、自己コントロール力も伸びるようになるんです。

【小山】今は共働きが増えて、皆さんとても忙しいから、子供がそうやって家事を担ってくれたら助かりますよね。「ありがとう」って子供にお礼を伝えることもできる……。よいことづくしですね。

社会に一歩出るとIQの高さだけでは乗り切れないことがたくさんありますが、家事で伸びる能力は、まさに社会でうまく生きていくために必要な能力だと思います。予測して段取りできたり、自分の感情や行動をちゃんとコントロールできたりといったことは、大人になってから身に付けるのは難しい。子供のうちに家庭でしっかり身に付けておきたい能力です。

とはいえ、子供に仕事を任せるのは最初は心配ですよね。失敗しないように先回りしてあげたくなりそうです。

小山浩子、成田奈緒子『「賢い脳」は脂が9割』(小社刊)
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【成田】そこは、グッと我慢です!

失敗しても、下手でも、時間がかかっても、「想定内だ」「いずれできるようになる」と見守ってほしい。というのも、その失敗が脳を成長させる重要な刺激になるからです。

前頭葉には、「刈り込み現象」というものがあります。これは、神経細胞のつなぎ役である「シナプス」が密に発達した後、重要なシナプスだけを残して不要なものを刈り込んでいくというもの。この現象があるから、脳内に無駄がなくなって、迅速に頭が回転するようになるんです。

【小山】「おりこうさんの脳」の成長過程ですね。

【成田】そうです。学習や経験から得た知識が「おりこうさんの脳」に詰められ、失敗する過程で刈り込まれながら統合されて、脳が仕上がっていく。

だから、卵焼きを焦がしても、お皿を割っても、買い物を忘れても、親は「今は脳が仕上がっている途中なんだ」と考えて、わざと失敗させるくらいの気持ちでいてほしい。

脳の成長のためにも失敗は必要ですが、人間が信頼関係を構築するうえでも重要な体験です。「失敗してもママがきっと助けてくれる」「もし自分がダメだったとしても、周りに相談すれば何とかなる」など、人を頼ったり信じたりする力、「自分は次はきっとできる。自分にはその力がある」と自分を信じる力を育てます。それが、困難に負けないレジリエンス力になるんです。いつもお膳立てされた成功ばかりでは、その力も育てられないですからね。

【小山】テストでいい点をとるのも大事ですけど、自分で行動して失敗してそれをまた見直して次に活かすと、主体的にPDCAがちゃんと回していけるようになる。その過程で、脳はぐんぐん成長するんですね。

【成田】そうですね。脳発達の3ステップに合わせて、栄養と、五感で得る感覚という刺激をたくさん注いであげる。そうすると、自分の前頭葉でつくったオリジナルの思考ができる脳が完成します。そこではじめて、人間の脳は本当に活かされるのだと思います。

※本稿は、『プレジデントFamily2025夏号』の一部を再編集したものです。