自分自身は愛されていないかもしれない

それを見た時、もし自分があの子のような失敗をしたら、どうなっただろうか、と心配になりました。そして、自分が褒めてもらえているのは、勉強でもピアノでも、そこそこの結果を出しているからであり、もしうまくできなくなったら、自分はダメな子と思われるのではないか、と思ったそうです。そう思ったらゾッとしたのですが、それ以上考えるのは怖いので、以後そのことは考えないようにしました。それまでもそれなりにやってきていましたが、以後はこれまで以上に、決して怒られないようにと思ってやってきたように思う、と話してくれました。

「それは大変な思いをしたのだね。人生が変わるくらいの大きな出来事だったのではないかと思うよ。無理の人生がそこから始まったのかもしれないよね。よく思い出してくれたね。そして話してくれたね。ありがとう」と礼を述べたうえで、「それは要するに、自分が褒めてもらえるのは、結果を出しているからであり、自分自身が褒められているのではないかもしれない。愛してもらえているのは自分が出した結果であり、自分自身は愛されていないかもしれない、という不安なんじゃないかな?」と返すと、しばらくの沈黙が続き、彼女は涙を浮かべました。

若い女性と壊れたハート
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「愛している」を伝える行動

診察室に母親にも入ってもらい、先ほどの話を説明しました。「えっ、そんなことを心配していたんですか?」と母親はびっくりした様子でした。

私:お母さん、娘さんを愛しておられますよね?
母親:はい。もちろんです。
私:本人が出すよい結果だけを愛しているわけではありませんよね?
母親:はい、そうです。
私:だけど不幸にも、ふとしたきっかけで、娘さんは誤解をしてしまったんです。誤解を解く必要があります。
母親:はい、わかりました。これまで以上に褒めてあげようと思います。
私:褒めることは大切ですが、成果を出した時だけ褒めると、自分自身は愛されていないのではないかと本人は不安になります。なので、成果を出せなかった時、失敗した時こそ、しっかり愛してあげてほしいです。
母親:愛しているって言えばいいですか?
私:それもありですが、何だか照れくさいですよね。失敗した時こそ、抱きしめてあげてください。何か言ってもいいし、言わなくていいです。
母親:わかりました。それならできます。失敗しても頑張ったんですから。
私:頑張った時も褒めてあげてほしいですが、頑張った時だけ褒めると、頑張れなかったら褒めてもらえないことになります。なので、頑張れなかったとしても、褒めてあげてほしいです。
母親:頑張れない時も?
私:そうです。頑張るかどうかは関係ないです。人間、頑張れる時もありますが、頑張れない時だってあります。そうですねえ、生きていることを褒め、死なずに生きている本人をハグしてあげてください。
母親:わかりました。

このあと、事態は少しずつ動きだしました。頑張って食べることができなくて本人が泣きだした時、母親は思わず抱きしめました。それまでは「なぜ食べないの!」と言って叱っていたのが、初めて娘の本当のつらさがわかるようになり、2人でしばら泣いたのだそうです。それから、やせ願望がなくなったわけではないものの、これまでよりは食べることへの恐怖感はいくらか減りました。母親に安心して甘えるようになり、体重も少しずつですが増えていきました。