映画観賞会もできる大きな図書館
取材当日は私の他にも2組の学校見学者がいた。現在、全国からひっきりなしに見学者が訪れることから、月に数日のみの受け入れに制限しているという。全国から注目を集める公立学校、それが学び舎ゆめの森だ。
エントランスをくぐると、本棚が並ぶ「図書ひろば」が広がる。5万冊の図書が収容可能で、現在2万5000冊ほどが所蔵されているという。校舎は図書館を中心に、すべての教室へアクセスできるよう設計されていた。
にこやかに取材を迎え入れてくれた教頭の猪狩孝先生は、図書ひろばについてこう語る。
「大熊町は昔から“本の町”として、図書館教育に力を入れてきた歴史があります。そのため、新しい学校をつくる際にも地域の良さを継承し、それを学校に投影させる目的を持ってこの校舎が建てられました」
学校であると同時に、地域の社会施設でもある当施設。時には、「図書ひろば」の壁にスクリーンを下ろし、町民も参加する100人規模の講演会や映画観賞会にも使用されているという。避難時に使用される段ボールベッドを、子どもたちが組み立てて、このスペースに並べ、寝泊まりしたこともある。
「0から1を生み出せる子どもたちを育む」
地域に学校をつくる際に、どんな人材を育てていくべきかがとことん話し合われた。猪狩先生は当時のことをこう伝え聞いているという。
「新しい学校をつくるとき、地域にとっての子どもの大切さを全員が噛み締めて議論に臨んでいました。一度、町民がゼロになることを経験したこの土地で、どんな子どもたちを育てていくべきか……。これは、町の存続に関わる命題でしょう。
その議論の過程で出されたのが、『0から1を生み出せる子どもたちを育む』ということです。そのためには、従来の価値観と学力観から転換し、子どもたち自らが主人公となり理想となる未来を描いていく力を重視していく必要があります。つまり、唯一無二の存在であるひとりひとりの自由こそ大事にする必要がある。
そんな議論を受けて、〈『わたし』を大事にし、『あなた』を大事にし、みんなで未来を紡ぎ出す〉という本校のビジョンが決定しました。そして、今、私たちはこの未来を創れる子どもたちを育てるために、あらゆる教育活動を設計しています」



