人手不足が深刻化する中、リクルートワークス研究所が発表した「2040年に1100万人の働き手が足りなくなる」という報告書がテレビやネットで話題となった。これから訪れる「人手不足」は、単なる雇用の問題ではなく、宅配便の配送や保育・介護サービス、災害からの復旧といった「生活維持サービス」の水準低下、そしてそれらの消滅を招く。労働需給のシミュレーションから見えた2040年の日本が直面する危機とは――。

※本稿は、古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

2040年に1100万人の働き手が足りなくなる

横並びで堰を切ったように進む賃上げ、現業系のサービスを中心にまったく収まる気配のない人手不足、あの手この手で採用難を乗り越えようとする企業や自治体の奮闘――。

人手不足を直接・間接的に報じるニュースを目にしないことはないし、身のまわりのサービス水準の低下やトラブル、事故の発生などを肌身に感じることも増えてきた。

日本社会に何が起こっているのか、何かが起こっているのではないかと感じたことはないだろうか。

われわれリクルートワークス研究所では、日本社会が構造的な人手不足に陥るのではないかという危機感のもと、2023年3月に「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」という報告書を発表した。このまま「座して待つと何が起こるのか」という将来像を明確にすべく、私たちは労働の需要と供給の観点からシミュレーションをおこなった。

シミュレーションの結果、浮かび上がってきたのは、衝撃的な日本の未来の姿だった。

2040年に日本では、1100万人の働き手が足りなくなる――。

働き手が足りないというニュースは多くの人が耳にしているが、これから起ころうとしている「人手不足」は、これまでの単なる「人手不足」とは異なるのだ。

【図表1】労働需給シミュレーション
リクルートワークス研究所、2023、「未来予測2040

生活維持サービスが消滅する危機

なかでも最も懸念されるのは、私たちの生活を支えている「生活維持サービス」の水準低下、そして消滅の危機である。

たとえば、業種別の労働需給シミュレーションの結果を見てみると、2040年には介護サービス職で25.2%、ドライバー職で24.1%、建設職で22.0%が不足することがわかった。

すると、どうなるか。

日本に住むすべての人にとって「大変だなあ」ではすまない。

老いた親の介護サービスが、前日の夜や当日の朝に急に「スタッフの確保ができない」という理由で受けられなくなる。そうなると、働き盛りの家族が介護をしなくてはならない。宅配便の遅延が当たり前になり、買い物に行くために行き来をする時間も増える。ドライバー不足でコンビニやスーパーの商品の補充も毎日はされないかもしれない。さらに、建設現場の人手不足で地方の生活道路が穴だらけになってしまう。すると、買い物や通勤に行くための時間も長くなり、生活がさらに大変になっていく――。

注文したものの配送、ゴミの処理、災害からの復旧、道路の除雪、保育サービス、介護サービス……。私たちは今、これまで当たり前に享受してきたあらゆる「生活維持サービス」の水準が低下し、消滅する危機に直面しているのである。

詳しくは『「働き手不足1100万人」の衝撃』に書いたが、人口動態に基づくシミュレーションは最も確実な未来予測とも言われ、「座して待てば」日本社会が高齢人口比率の高まりによって、今後10年から15年かけてこうした局面に至るのはほぼ間違いないと考えられる。現在起こっている、さまざまなエッセンシャルワークや現業の仕事における著しい人手不足は、その入り口にすぎないのだ。

これまでの人手不足問題は、後継者不足や技能承継難、デジタル人材の不足といった産業・企業視点から語られてきたが、これから訪れる人手不足は「生活を維持するために必要な労働力を日本社会は供給できなくなるのではないか」という、生活者の問題としてわれわれの前に現れるのだ。