日本の人手不足問題はこれから、「人手が足りなくて忙しい」「成長産業に労働力が移動できない」というレベルの不足ではなくなる。すでに地方の現場では働き手の高齢化は深刻な問題で、平均年齢が「60代半ば」の働き手によって担われる生活維持サービスが増えていくという――。

※本稿は、古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

サービスの質を維持できないレベルの人手不足

私たちリクルートワークス研究所では、2040年までに日本全体でどれくらい働き手が足りなくなるのか、労働の需要と供給をシミュレーションした。

その結果、社会における労働の供給量(担い手の数)は、今後数年の踊り場を経て2027年頃から急激に減少。2022年に約6587万人であった労働供給量は、現役世代人口の急減にともなって2030年には約6337万人、2040年には5767万人へと減少していくことが見えてきた。

このように労働供給が減少していくことによって発生する労働供給制約という問題は、成長産業に労働力が移動できない、人手が足りなくて忙しいというレベルの不足ではない。結果的に、運搬職や建設職、介護、医療などの生活維持にかかわるサービスにおいて、サービスの質を維持することが難しいレベルでの労働供給制約が生じるのである。

生産年齢人口比率の低下による影響が真に深刻化するのはこれからだが、すでに一部の地方の現場を皮切りに、労働供給制約を背景としたさまざまな影響が出はじめている。

地方の労働供給制約という課題がどのような状況を生み出しているのか、“最前線”をより多くの人が知ることなしには議論は進まないと考え、本稿では日本の地方とその現場を紹介する。

【事例①】高齢者が地域の配達を担っている

まずは物流関係の地域企業の声も紹介したい。東北地方で新聞や広報誌、選挙公報などの配送をおこなっている中小企業の社長に話を聞いた。

「新聞であれば1万数千部を配達しているのですが、だいたい毎日1000部ほど配達ができていない状況です。それをどうしているのかと言えば、配達担当以外のスタッフが手分けして配っています。

こうした慢性的に人が足りていない状況になってきたのは、コロナ直前の2019年くらいから。もう3、4年この状況が続いていて正直つらいです。1人あたりの配達量は変えていないのですが、配達スタッフも徐々に高齢になっています。最近では、朝に突然『体調が悪い』とか、冬には『転んだ』といった連絡が入ることも増え、どんどん配達員が離脱しています」

高齢者が地域の配達を担う現状──。

とくにここ数年で人手不足は悪化し、ギリギリのやり繰りが続いているという。「つらい」という言葉をD社社長がこぼしていたが、現場で起こっていることをさらに詳しく聞いた。

「現在、配達スタッフの平均年齢は60代半ば。80代前半の配達員も多く、最年長は86歳です。信じられますか? 健康で元気な高齢者が多くなっているので頼もしいですが、現役世代が働くのとは違う配慮が必要になってくるのも事実です。

近年、配送のラストワンマイルを、戸別配送しているわれわれのような地域の会社に担ってもらおうという議論がありますが、机上の空論にすぎません。現状は70代、80代のスタッフが中心で、重いものや大きい荷物を持ち運ぶのは難しいですし、5年後、10年後にどうサービスを維持できるのか想像できていませんよね。昔みたいに現役世代が配っているのではないんですから」

新聞配達
写真=チョコクロ/写真AC
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