世界戦略なんてよく言えるなあ

右が「てっちゃん」、その左隣が「ハモニカキッチン」。

【手塚】たまたま2年ぐらい前に古本屋でネルーの『インドの発見』の上巻だけ150円で買ったんです。これは私小説だと思った。彼がインドに生まれてインドの街に育ち、恋愛をして……という中で、だんだんインドとか、当時インドを植民地にしていたイギリスが、自分の中に表れてくるんですよ。

ぼくらは、ハモニカ横丁とか、東京とか、国っていうものが、あたかも自分と離れて存在するっていうふうに考えるじゃないですか。でも彼の本を読んでいたら、1つひとつ、すべてのことが、何かのきっかけで自分と関わって初めて出てくる。それ以外の存在や登場の仕方がない。

たぶん数学の1+1=2って、本当はかなりわかりにくい概念なんです。それをぼくらは簡単に、あたかもわかってるかのように洗脳されている。でも、『インドの発見』を読んだときに、「ああ、物事ってそんなに早わかりしなくてもいいんだ。正確に考えるとなかなかわからないことが多いんだ」って思った。結局、自分にとっては、自分の感覚の範囲にしか現れないんだよね。

【三浦】そうすると、お店は頭で考えるよりも、出してみたほうが早くわかる?

ハモニカキッチン2Fにて。

【手塚】そうですね。出してみたほうが早いし、やらないとわからないことのほうが多い。やりながら考えて、たぶん3カ月ぐらいかけてメニューのやり直しとか、いろんなことをやらざるを得ないと思います。やってみなきゃわからない、行き当たりばったりなんだと思っていますよ。

パリにコレットっていう店があるじゃないですか。前に「STUDIO VOICE」でコレットの特集をやっていたのを読んだんですけど、コレットってたまたまできちゃったのね。あの店の名前はお母さんの名前で、たまたまあの物件が空いて何かやろうかなと思っているときに娘さんが大学を卒業して雑貨屋をやりたいと言って、コレットさんがやっていたアパレル店の隣に内装の上手な男がいて、「あんた、やってよ」と言って始まって。最初は日本人の金持ちぐらいしか来ない(笑)駄目な店だろうと思っていたのが、だんだんいい店になってくる。

何か、意気込んで「こうやるぞ」と考えてやるものではなくて、わりと自然にできるんだね。人間が考えることって、大したことないですよ、だいたい。だからぼくは、世界戦略とか、グローバリズムとか言う人を見ると、よくそういうこと平気で言えるなと思っちゃうね(笑)。

■ネルー
Jawharll Nehr. インドの政治家。1989年生まれ。64年没。1947年のインド独立後の初代首相。1905~12年、イギリスに留学して弁護士となる。帰国後、ガンジーと民族運動を指導。彼の死後、66年に首相に就任し、84年に暗殺されたインディラ・ガンジーは長女。
■コレット
パリのサントノレ地区にあるセレクトショップ。

<次回予告>吉祥寺の街中にあったのに、手塚さんが気づくことができなかったと語る「ビジネスチャンス」。それは何か。そしていきなり三浦さんが編集部に振ったことばとは何か。第6回《「なりたい自分」になんか、なれるわけがない》は11月9日掲載予定です。

(構成=プレジデントオンライン編集部 石井伸介)
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