「わかりやすいシンプルな商品」
 「利便性の高いチャネル」
 「十分な保障を必要最小限の価格で」

顧客はこうした保険商品を求めていたのに、それを満たすものが十分提供されているとはいい難かったのだ。

ライフネット生命保険副社長
岩瀬大輔氏

そして自社、ライフネット生命に目を向けると、2008年5月に営業をスタートさせたばかりのベンチャー企業である。全国に支店網を張りめぐらせた既存の大手生命保険会社に比べれば、企業規模は小さい。しかし、新しい会社ゆえに過去のやり方やしがらみに縛られず、思い切ったチャレンジが可能である。

このように自社、競合、顧客の3つを眺め、重ね合わせていくと、お客さまにとって利便性の高いインターネットというチャネルを介し、シンプルな商品を、余計なコストを省いた低価格で提供するという、自社が取るべき戦略が浮かびあがってくる。

フォーカスすべきことがわかれば、捨てるべきことも判断できるようになる。たとえば、当社のお客さまは小さな子どものいる若い世代の方が多いため、「学資保険を取り扱ってほしい」という要望がたくさん寄せられるが、当面は取り扱わないことに決めている。

せっかくお客さまから要望があるのになぜ、と思われるかもしれない。その理由は、われわれの優位性を発揮できるかどうかを考えればよくわかる。

生命保険は掛け捨てのもの(保障型)と貯蓄性を持つもの(貯蓄型)の2種類に分けられ、当社では前者しか取り扱っていない。なぜなら貯蓄性を持つ商品は手数料の割合が相対的に小さく、他社と比べて保険料を大幅に下げられる余地が小さいからだ。

これではお客さまに与えるインパクトがない。逆に掛け捨ての保険は、保険料に占める手数料が相対的に高く、価格を引き下げる余地が大きい。

学資保険は貯蓄型の商品である。だから、いくら要望が多くても当面は取り扱わないと判断したのである。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=宮内 健 撮影=向井 渉)
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