なぜ強力な経営者は暴走してしまうのか

パッションと利害得失の判断のバランスをとる必要は企業にもある。私は、それがコーポレートガバナンスの重要な課題ではないかと考えている。コーポレートガバナンスは株主の意向を企業経営に反映させることだという見方があるが、それは重要な問題を矮小化した見方である。コーポレートガバナンスは、よりよい企業経営を担保することである。

よい企業経営を持続させるには、3つの経営精神のバランスをとる必要があるということを書いたことがある。この3つの精神のバランスをとることも容易なことではない。第一の精神は市民精神である。節約、勤勉、質素、調和などの市民的価値観である。マックス・ウェーバーがプロテスタンティズムの倫理と呼んだものである。第二は、企業精神。高い目的や高邁な使命を掲げて、是が非でもそれを実現しようとする精神である。ハーシュマンのいうパッションである。第三は、自分たちの利害得失を数字でとらえて、利害得失を冷静に比較衡量しようとする精神であり、営利精神あるいは合理精神である。

この3つの精神のうち、パッションが強くなりすぎて、創業経営者や中興の祖と呼ばれるような強力な経営者が暴走してしまうことがある。アメリカでは、GMの創業者デュラント、日本では、鈴木商店の大番頭・金子直吉、ダイエーの創業者・中内功など、そのような例は枚挙に暇がない。コーポレートガバナンスの最も重要な課題となるのは、このパッションのマネジメントある。このような人々を支えているのは、パッションである。パッションがあるからこそ、成長あるいは変革のための大きなエネルギーが注入される。しかし、このパッションゆえに暴走も起こる。

このパッションを制御するのは、営利精神、つまり冷静に算盤をはじいて利害得失を考えようという精神である。企業だから利益を考えるのは当然だと考える読者がいるかもしれない。利益が得られるからという動機からは力強いパッションは生み出せない。企業経営の歴史を見てみると、利益計算つまり利害得失の数値的な判断はアクセルよりもむしろブレーキの役割を演じることが多い。アクセルとブレーキの上手な使い分けがドライブに欠かせないのと同様、企業経営にも、パッションと利害得失の冷静な判断の使い分けが欠かせない。

経済学者のマーシャルは「クールヘッド(冷静な頭脳)とウオームハート(温かい心)」の双方が必要だといっている。人の集団の中でこの2つを両立させることは容易なことではない。リーダーの役割の大きさとガバナンスの重要性を考えさせられる。