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図1 デフレ・需要不足の本質とは?

日本を襲っているデフレ現象・需要不足の根幹にあるのは、「有限の地球」という事実、さらに「人工物の飽和」という現象だ。たとえば自動車であるが、現在、国内で保有している自動車の台数は約6000万台で、人口当たりで換算すると2人に1台となる。日本では自動車の寿命は約12年だから、年間需要は500万台しかない(図1)。

次に住宅を見ていく。日本ではこれまで右肩上がりで人口と世帯数が増え、それに応じて住宅数も増えてきた。現在、日本の世帯数は約5000万であり、5000万戸強の住宅がある。日本では平均50年で建て替えを行うというデータがあるから、年間需要は100万戸(図1)。ここから大きく伸びることはない。

車を2人に1台保有し、住宅数は世帯数にほぼ等しいという数字は、先進国でほぼ共通している。つまり人口が飽和して生活に必要な人工物が行き渡ってしまったということが、先進国が需要不足に悩んでいる真の要因なのである。

三菱総合研究所理事長
小宮山 宏

1944年、栃木県生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。工学博士。2005年、東大総長に就任。「東京大学アクションプラン」を発表して改革を推進する。09年より現職。著書は『「課題先進国」日本』『東大のこと、教えます』など多数。

一方、インドや中国といった新興国では、こうした消費財に対する需要は旺盛だが、そのうち先進国と同じ道をたどる。しかも、その速度はわれわれが経験したのと比べて格段に早い。「人工物の飽和」とそれに伴う需要不足が、早晩、世界を覆うことになるだろう。

では、私たちは今後ずっと需要不足に苦しまなければならないのだろうか。答えはノーである。なぜかといえば、需要にも2種類があるからだ。

ひとつは「普及型需要」というべきもので、いまある商品やサービスを指す。たとえば、車や住宅のほかにテレビ、新幹線、原子力発電所などだ。満たされた途端、飽和してしまう需要である。

さて、もうひとつが「創造型需要」だ。これは高効率の給湯器、LED照明、太陽電池、電気自動車など、これから生まれつつあるものを指す。

「普及型需要」の商品・サービスについては、インドや中国といった新興国が、すでに価格面で優位に立ち始めている。日本が今後、世界の中で競争力を発揮していくためには、日本のものづくりの力を「創造型需要」に生かしていく必要があるだろう。

需要に2種類あり、日本が「創造型需要」分野に注力すべきだということは、テレビ、パソコンといった先進国の生活に必要な消費財の普及率や、耐久年数に直に当たってわかったことである。

※すべて雑誌掲載当時