しかし、過去の遺産や確立している知名度に頼り続けるようなクリエイティブは、いずれ行き詰まります。有限の石油資源などと同じく、「いつかは尽きる」からです。それゆえ我々は、まだ石油が残っているうちに、新しいエネルギー資源を発見・採掘、あるいは開発しなければなりません。それは既存の石油を採掘する労力の何十倍、何百倍も大変ですが、誰かがやらなければならない。それを積極的にやっている殊勝な集団のひとつが、ピクサーなのです。

日本には『ドラえもん』がある

では、日本にチャレンジ精神やフロンティア精神は存在しないのでしょうか? もちろん、そんなことはありません。良い例が「映画ドラえもん」シリーズです。

まず、2005年に行った声優とスタッフの総取っ換えです。多くのオールドファンの反発をものともせず、以後10年以上をかけて「新しいドラえもん」は完全にスタンダードとして定着しました。

2013年のオリジナル脚本作『のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)』は、映画ドラえもん史上初めて、事実上の主人公がいつもののび太ではなくドラえもんでした。

『映画ドラえもん のび太の宝島』の劇中シーン。(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2018

2014年にはCGアニメ『STAND BY MEドラえもん』を公開しています。それまで日本では、国産CGアニメで「メガヒット作」と呼べるものは1本もありませんでしたが、同作は83.8億円と文句なしのメガヒット。これはピクサーの『ファインディング・ドリー』(2016年/68.3億円)を上回り、同『モンスターズ・ユニバーシティ』(2013年/89.6億円)に迫る好成績でした。「国産CGアニメはヒットしない」という日本の興行ジンクスを打ち破ったのです。

2018年3月3日に公開された『のび太の宝島』では、映画脚本経験のない東宝のプロデューサー・川村元気氏に単独でオリジナル脚本を任せています。歴史ある国民的人気作の最新作を脚本未経験者に託すのは、十分にチャレンジャブルではないでしょうか。その『のび太の宝島』は、動員数ベースで「映画ドラえもん」シリーズ史上最高記録を4月8日に更新済みで、4月15日時点での累計興収は50億円に達しました。