チャレンジを促すのは「あたたかい目」

もちろん、チャレンジには失敗がつきものです。ピクサーも連戦連勝というわけではありません。2016年公開のオリジナル作品『アーロと少年』の日本興収はたった17億円。2017年公開の「カーズ」シリーズ第3作『カーズ/クロスロード』も18億円にとどまっています。この2作は日本以外の国でも芳しい成績を残せませんでした。

しかし創作で大切なのは失敗しないことではなく、失敗してもチャレンジをやめないという精神ではないでしょうか。声優・スタッフをリニューアル後初めて製作した映画『のび太の恐竜2006』の劇中、恐竜の化石を無謀にも独力で発見しようとするのび太に対して、ドラえもんがこんなセリフを発しています。

「失敗してもいいさ! あたたかい目でみまもってやろう!」

藤子・F・不二雄『大長編ドラえもん のび太の恐竜』(小学館「コロコロコミック」に1979~80年連載)より

こうしてドラえもんにあたたかく見守られたのび太は、見事に恐竜の卵を孵(かえ)しました。ビジネスの世界で野心的な起業家を支援する事業者をインキュベーター(incubator/孵化〈ふか〉器)と呼ぶのは、いかにもといったところ。日本の映画界でチャレンジ精神やフロンティア精神を育てるのは、ドラえもんのように優しく寛容な「あたたかい目」なのです。

稲田 豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター
1974年、愛知県生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。編著に『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、編集担当書籍に『押井言論 2012-2015』(押井守・著、サイゾー)など。
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