耐え続けてもご褒美は待っていない

自分自身を「憧れの存在」にするためには、どこにでもいる「いい人」から抜け出し、「お人よし」をやめることです。たとえば、会社や職場、仕事に対するスタンスをあらためることが、「お人よし」から脱却する第一歩になることもあります。

戦後、高度経済成長期においては、「1つの会社に骨をうずめるつもりで働く」という考え方があるべき姿として捉えられました。その考え方の背景には、忍耐が美徳とされ、会社が一生の食いぶちを守ってくれるものという共通認識が存在していたのです。

しかし、今は違います。より良い条件の仕事場を求め、賢く転職・独立してステップアップしてゆくことは、すでに当たり前のことになっています。かつては信頼できない生き方の例をされていた「度重なるキャリアシフト」が新しい生き方として前向きに捉えられるようになってきたのです。

ところが、現代流の「お人よし」で変化を恐れるただの「いい人」は、小さな安定と、職場での混沌としたしがらみを「宝物」のように扱います。その「宝物」自体も、心の底から望み、手に入れたものではありません。

自分の財産は会社の中にではなく、自分の中にある

「お人よし」は、小さな現状を維持するためだけに、「しっくりこない仕事」や「ストレス満点の人間関係」に身を投じ続け、「耐え続ければご褒美が待っている」と勘違いするのです。そして、もし、その会社からリストラされようものなら、それを「コースアウト」としてマイナスに捉えてしまいます。「新しい可能性へ挑戦する時間とチャンスが芽生えた! 人生の新しいステップアップの機会を得た!」とは思えないのです。

そんな人になりたくなければ、「自分の財産は会社の中にではなく、自分の中にある」と考えることです。会社に忠誠を尽くすことよりも、自分のキャリアを磨くことに視点を置きましょう。これまで積み重ねてきたキャリアやビジネスノウハウはあなたの中に秘伝のタレとして存在します。秘伝のタレがもっとおいしく引き立つ仕事場を探すことです。器(会社)にこだわってはいけません。

「平日は居酒屋、休日はゴルフ」というライフスタイルは、終身雇用・年功序列の旧日本型経営が行われていた時代の産物です。つまり、会社の側も社員に対して「お人よし」だった時代のライフスタイルであると認識しましょう。

現在は、かつては生涯の安定を約束する就職先として人気を集めた銀行ですら大規模なリストラを断行する時代です。かつては「お人よし」だった会社も、現在は姿を変えて、社員に牙をむいています。「お人よし」になって会社に忠誠を尽くしていては、ある日突然、生活に困窮するかもしれません。あなたが今、会社に勤めているのなら、社員としての立場を利用して自分のキャリアを磨くべきです。

潮凪 洋介(しおなぎ・ようすけ)
エッセイスト・講演家
早稲田大学社会科学部卒業。主な著書に、『もう「いい人」になるのはやめなさい!』『それでも「いい人」を続けますか?』(ともにKADOKAWA)、『「バカになれる男」の魅力』(三笠書房)、『「男の色気」のつくり方』(あさ出版)などがある。
(写真=iStock.com)
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