腸内細菌と自閉症

わたしたちの著書『「きたない子育て」はいいことだらけ!』の内容で議論を呼んだのは、マイクロバイオームの変化と自閉症スペクトラム(ASD)の関係について書いた箇所だった。自閉症は世の中の関心と反応が強い分野であり、わたしたちの本に対してもそうだった。

『「きたない子育て」はいいことだらけ!』(B. Brett FinlayMarie-Claire Arrieta著・プレジデント社刊)

出版後、数人の科学者から、自閉症をマイクロバイオームの変化が引き起こす病気のひとつとすることに対する反論が寄せられた。彼らの言い分としては、これまでに発表されているこの分野の論文はすべて動物実験であり、わたしたちが引用した人間におけるエビデンスは未発表の限定的な糞便移植のケースにすぎないという点だった。

これはまさにわたしたちの問題意識と同じで、そのため本に入れるかどうかについては議論を重ねた。結局入れることにしたのは、発表されている動物を使った研究の質が高かったのと、ASDのお子さんに糞便移植をおこなった親御さんたちと直接対話ができたからだ。

最近、アリゾナ州立大学において、新たな糞便移植の実験が行われた。その結果はわれわれの仮説を裏付けるものであった。この臨床実験において、ASDと診断された18人の子どもたちは2週間にわたって抗生物質のバンコマイシンを投与され、その後12~24時間の絶食のあと腸内洗浄を行い、7~8週間にわたって毎日糞便移植を受けた。この実験では、治療後8週間にわたってASDに関連した消化器系の症状と行動症状を追跡した。まずASD患者によく見られる便秘、下痢、消化不良、腹痛の症状の劇的な改善がみられた。さらに驚くことには治療後8週間たっても行動症状の大幅な改善が続いたことだ。

より長期の実験が必要なのは言うまでもないが、これはASD治療の大きな一歩といえるだろう。実際、この研究のフォローアップとしてより大規模な臨床実験が始まっている。わたしたちは読者がこうした良質な研究の動向に目を向け、それぞれのかかっている医師たちに注意喚起をすることを期待したい。まだこうした治療は始まったばかりで、標準的な治療の一つとなるまでにはさらなる時間と実験が必要だ。

はっきりしているのは、わたしたちの身体に棲みついている微生物が、子どもの健康と成長に重要な役割を果たしているということ、そしてそれが何かを突き止めるための新たな研究が続いていくということだ。この新しい科学の恩恵により、子どもたちはより健やかに育つだろう。微生物たちと仲良くすることがその秘訣である。

ブレット・フィンレー
ブリティッシュ・コロンビア大学教授
バクテリア感染に関する世界的権威。微生物研究歴は30年、450本の論文を発表する一方で、バイオテクノロジーベンチャーのInimex、Vedanta、Microbiome Insights の創業者でもある。カナダの民間人が受けることのできる最高位の勲章、Order of Canada の受勲者。

マリー=クレール・アリエッタ
カルガリー大学准教授
腸内細菌と免疫についての研究者。最近の乳児のぜんそくと重要腸内細菌群欠如についての研究は、2015年にこの分野のブレークスルーとして注目され、数々のメディアでとりあげられた。『Gastroenterology』『PNAS』『Science Translational Medicine』などに論文を発表している。
(写真=iStock.com)
【関連記事】
5歳児の脳を損傷させた「DV夫婦」の末路
"親ペナルティ"を40歳で負う覚悟はあるか
ひふみん直伝"将棋が子育てに役立つ理由"
"良かれ良かれ"で子供を壊す母の共通点5
なぜ"不良の中学生"はモテなくなったのか