対日ハイテク武器売却問題はすでに織り込み済み

最後にトランプ大統領の就任初訪日について米サイドの評価についてです。

米テレビはトランプ夫妻が行く先々で歓迎を受けている映像を流しました。しかし新聞やオンラインメディアは日本での歓迎ぶりはあっさりとしか取り上げませんでした。日米同盟の深化とか、日本は最重要同盟国だ、といった文句は米メディアでは見出しにもなりません。

北朝鮮の脅威に対処するために米国が対日軍事品輸出を拡大させる点についても「エイジス・オフショアやF35A戦闘機の供与はすでに政府間で協議中」(米国防総省筋)であることを理由に大きなニュースにはなっていません。

対日貿易赤字問題についても麻生太郎副総理とマイク・ペンス副大統領とで行われている日米経済対話にゆだねることで合意し、問題は先送りされました。

トランプを手玉にとった「安倍のしたたかさ」

過去40年間、米国政府の内外を取材してきた元東京特派員はこうコメントしています。

「当選前にはトランプは安倍(首相)のことを『集中豪雨的対米輸入と為替操作で米失業者を増大させるKiller(もともとは殺人者、転じてやり手とか凄腕といった意味)だ』と言っていた。ところが今やバディ(信頼すべき同僚)という豹変ぶりだ」

「安倍は、気まぐれで予想不可能なトランプを適当に扱いながら、TPPやパリ協定などではトランプとは正反対のことを巧みに進めている。見上げたものだ。日米関係でいえば貿易や防衛分担の話はすべて先送り。安倍はトランプが短命に終わっても(大統領に昇格する可能性が最も高い)ペンス(副大統領)とうまくやっていけるという自信がありそうだ」

今回のトランプ大統領のアジア歴訪の「敗者」はトランプ大統領一人。アジア歴訪に六割の米国民が「失敗だった」と断定する根拠はこの一言に尽きます。

高濱 賛(たかはま・たとう)
在米ジャーナリスト、米パシフィック・リサーチ・インスティチュート所長
1941年生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒業後、読売新聞入社。ワシントン特派員、総理大臣官邸、外務省、防衛庁(現防衛省)各キャップ、政治部デスク、調査研究本部主任研究員を経て、母校ジャーナリズム大学院で「日米報道比較論」を教える。『中曽根外政論』(PHP研究所)、『アメリカの教科書が教える日本の戦争』(アスコム)など著書多数。
(写真=White House/ZUMA Press/アフロ)
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