減った人口は元の数には戻らない

――復興するうえで、特に大きな問題は何でしょうか?

いかんせん、減った人口がなかなか元の数に戻らない。あの震災がなかったとしても、国として人口が減少しています。いわんや、過疎地や中山間地といわれる三陸沿岸ですから、問題が一段と深刻になるのです。町をもとに戻そうとしても、5年から10年後に、さらに本当に元気が出る町になるか、ならないか……。

もともとは、この地域は一軒家に住んでいた人が多いのです。昔ながらの造りで、玄関などは引き戸で、外からは開けやすいようになっていました。鍵をかけるという習慣は、少なくとも高齢者にはあまりなかったのです。

新聞配達の人が戸を引いて、下駄箱などに新聞を置いていく。「おばあちゃん、元気か?」と。これが、この地域のよさでした。「おい!サンマが捕れたぞ。魚を料理するから、みんな来いや」と声を掛け合うと、集まってくる人たちがいたのです。高齢者の人たちは、そのようなコミュニティで何十年も生きてきました。

今は、多くの高齢者が災害公営住宅に入って生活をしています。そこではドアで隔てられ、一人一人がいわば、住む世界が違うのです。こういう状況が進み、若い人がいつまでも戻ってこないと、復興はますます難しくなります。

町づくりは、地域に住んでいる人たちの、強いこだわりがないとできません。そのようなものが連綿と生きていかなければ、本当の町にはなりえない。今、それが突き付けられているのだと思います。

(吉田典史=取材・構成)
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