将来、都市ではクルマが不要になる

【田原】ヒト、モノ、カネが揃って、いまから量産化するわけですが、これからの展望を教えてもらえますか。

【杉江】短期的には、市場を拡大していくことを考えています。具体的にはヨーロッパ。イギリスから始めようと模索中で、すでにパートナーが決まっています。

【田原】機能面はどうですか。WHILLはさらに進化するんですか。

【杉江】自動運転や自動停止は進めています。自動運転できれば、たとえば空港で飛行機から降りた人をタクシー乗り場まで運んで、自分で元の位置まで勝手に戻ってくることもできる。人が車いすを押せばオペレーションコストがかかりますが、自動運転ならそれもかかりません。実際、いま羽田空港と一緒に実験をしています。将来は、WHILLが勝手に寄ってきて、「May I Help you?」と話しかけて連れて行ってくれるようになるでしょう。

【田原】おもしろい。そこまでいくと、もう車いすの概念を超えてるね。

【杉江】さらに未来の話をすると、都市においては、いずれクルマがいらなくなると思います。いまの都市のインフラは、クルマのためにつくられています。でも自動運転技術でクルマが公共的なものになれば私物としてのクルマは不要になり、おそらく都市のインフラも変わっていくでしょう。具体的には車道より歩道中心のまちづくりになる。そのとき求められるのは、歩道の移動体。そういう時代が来たときに、WHILLがリーダーになれればいいなと。

【田原】将来のライバルは他の車いすメーカーじゃなく自動車会社だ。杉江さんを手放した日産は、後悔しているんじゃないですか(笑)。

【杉江】僕が日産にいたときのCOOが志賀俊之さんで、志賀さんはいま産業革新機構の会長を務めておられます。産業革新機構はいま僕らに投資をしてくれていて、志賀さんともお話しする機会がありました。日産時代は雲の上だった方からいま投資を受けているのは不思議な感じがしますね。個人的な話はさておき、車道から歩道へといった時代の流れを考えると、いずれ自動車メーカーが一人乗り移動体のカテゴリーに参入してくると思います。また量産能力を考えると中国や台湾企業が今後の競合になると考えていますので、常に彼らの上を行くように備えて、会社を成長させたいですね。

神奈川・横浜のWHILL R&Dセンターにて。

杉江さんから田原さんへの質問

Q.マスコミが信用できません。どうすれば真実がわかりますか?

【田原】僕は、朝日、毎日、読売、日経、産経、東京と、新聞を6紙取っています。こんなに新聞を取っているのは、情報を得るためではありません。むしろ逆で、疑問を持つために新聞を読んでいるのです。

6紙に目を通すと、同じニュースでも書いてあることが違います。さらにネットも加えると、みんなばらばらです。ということは、どこかが間違えていたりウソをついていることになる。そうやって疑問を持つことが、真実に近づく第一歩になります。

疑問を持ったら、自分で調べればいい。僕は新聞記事がおかしいなと思ったら、書かれた政治家やコメントした学者本人、あるいは近い人に電話をして話を聞きます。メディアは、自分に着眼点を与えてくれるツールだと思って利用すればいいのです。

田原総一朗の遺言:自分で直接会いに行け!

編集部より:
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、ヘリオス社長・鍵本忠尚氏のインタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、12月12日発売の『PRESIDENT1.2号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
 
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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