2015年11月27日(金)

部下が何かにつけ「パワハラ」と騒ぎたてます

為末大の悩み相談室【12】

PRESIDENT Online スペシャル

答える人=為末大 撮影=鈴木愛子
いまやツイッターのフォロワー数29万人。世界陸上のメダリストで、ベストセラー『諦める力』の著者、為末大さんが、世界の問題から身近な問題まで、「納得できない!」「許せない!」「諦められない!」問題に答えます。(お悩みの募集は締め切りました)。
お悩みファイル12■「パワハラ」と騒ぎたて会社を休む部下
20代の部下が注意をしただけで、パワハラだと言ってきます。非常にやりにくいです。業務遂行上必要なことを指示しただけで、ハラスメントだと騒ぎたて、あてつけのように会社を休むなど、手に負えません。どうしたらいいですか?(男性・金融・42歳)

以前、食べ物への異物混入が問題になったことがありました。もちろん食べ物の安全性は大事な問題ですが、そういう問題が出るたびに品質管理をどんどん強化していくと、どこかでコストに見合わなくなって値段に跳ね返ったり、商品が出なくなったりする可能性もあります。ある種の寛容さを失うことには代償が伴うわけです。

ハラスメントの問題にしても、あまり敏感になりすぎるのはどうかと思います。そういうフレームで見るとなんでもハラスメントに見えてきますよね。たとえば国家間のあらゆる交渉には暴力や権力の影がつきまといます。そういったものをちらちらさせながら「何かあったら、わかってんだろうな」と世界各地でやりあっているのが現実です。それを「軍事力を背景に無理難題を押し付けてくるなんてハラスメント外交だ!」なんていっても誰も聞いてくれません。

小学生同士がもめたとき、いちばん効くのは「先生に言いつけてやる!」の一言です。当事者同士の話し合いではなく、何か大きな権力をもとに全体の問題を解決するという方法です。この癖が大人になっても抜けない人っていますよね。

この相談者の部下の方は、この「言いつけてやる!」メンタリティをひきずっているのかもしれません。社会に絶対的な正義とか絶対的な権限を持った誰かがいて、「その人に私がこのことを言ったら大変なことになりますよ!」ということで相手を黙らせるというやり方です。「ネットで曝してやる!」というのも、「世論」という権力に「言いつけてやる!」という態度ですよね。この「言いつけてやる!」が連鎖していくと誰も何も言えない状況ができあがります。

質問者の部下のAさんの究極の目的は、きっと「(自分にとって)気持ちよく働く」ことなのだと推察します。上司の指示や注意は彼にとって気持ちよくないことなのでしょう。それを面と向かって言えないから「それはパワハラだ」とやって相手を黙らせる。これで上司が本当に黙ってしまっては彼のやりたい放題です。おそらくこの部下は、この上司はそう言っておけば好きにさせてもらえるだろうとたかをくくっています。ある意味、まともで話がわかる上司だからこそ、「パワハラと言われることはまずい」という判断ができるとふんでいるわけです。

もし、パワハラにあたることは一切していないという自信があるのなら、部下の期待を裏切ってみるのも一案です。「パワハラだ」と言われてもまったく態度を変えずに淡々と接する。そうすれば相手も「この人にこの手は通じないな」と諦めるでしょう。

あるいは、「私もいろいろと苦労が多くて」と弱みを見せるのもいいかもしれません。「上司=強者」「部下=弱者」という部下の頭のなかに出来上がっている構図をいったん崩してみるということです。上司をパワハラ呼ばわりしても意味がない、あるいは上司をパワハラ呼ばわりしなくても気持ちよく仕事ができるということがわかったら、おさまるのではないでしょうか。

為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。
http://tamesue.jp
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スポーツ、教育、ビジネスの世界で活躍中の元プロアスリート・陸上メダリストの為末大がこれから10年後の近未来を見据え、「社会が科学や技術の進歩によってどのように変わっていくのか」という問いを、ノーベル賞受賞者から若き起業家まで、10の先駆者たちに投げかけた。

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前向きに「諦める」ことから、自分らしい人生が開けてくる――。何かを諦めながら何かを選び取る。その繰り返しの上に「自分らしさ」が生まれてくる。

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