「女性的な」問題解決の方法

【神田】野村さんが提唱されているファシリテーションの方法論は従来のパラダイムとは違ったアプローチですから、おそらくそこには恐れもともないますよね。与えられた範囲を越えて最適解を見つける能力があるのは、どういう人なのでしょう。

【野村】ふたつケースがあるように思います。ひとつは能力が高くて、より大きなチャレンジをしたいと考えているタイプの人。このタイプの人は、自分の会社だけではなく、さらに大きな枠組みを変えようとします。もうひとつは直感的、右脳的に「世の中で大切なこと、必要なことはこれだ!」という強い想いがあり、その想いで立ち上がるタイプの人ですね。

【神田】なるほど。それはいままでの合理的な考え方とはちょっと違うところから生まれているような気がしますね。

【野村】女性、男性と単純に分けてしまうのはどうかと思うんですけれども、「大切なことだからやる」という大胆な発想ができるのは女性のほうなのではないかと私は感じています。ゴールを達成して人に勝とうという考え方よりも、そもそも論に立ち返って、仲間を集めて、話し合っているうちに何かを起こしてしまうようなやり方は、どちらかというと女性的な問題解決の仕方だと思うんです。ただ、単純に仲間を集めればフューチャーセッションが開けるというわけではありません。多様なステークホルダーを一人ひとり集めるところがいちばん難しいのです。そういう意味ではSNSの浸透は、高密度な対話の場づくりの後押しにはなっています。

【神田】企業に2%か3%しかいない変革リーダー同士も簡単につながれるようになったということですね。前にも言いましたが、アナログの世界で接触した人が、デジタルで行動を呼びかけられると、デジタルだけの場合にくらべてそれに応える確率がずっと高くなります。アナログで知り合った人同士のつながりがデジタルで加速するんですね。

【野村】そう考えると、フューチャーセッション自体がメディアなんですよね。

【神田】そのメディアを通じて発信していくイノベーション・ファシリテーターは、仕事がそのまま生きざまとなります。そのような意識を持って活躍している人同士は、組織の枠組みを超えて共振し合うので、いまは明治維新のときのように、同じビジョンを持っている人たちがいろんな地域でいろんな変革を切磋琢磨しながらやっていくということが始まったのではないかと思います。

野村恭彦(のむら・たかひこ)
富士ゼロックスを経て、2012年6月、企業、行政、NPOを横断する社会イノベーションをけん引するため、株式会社フューチャーセッションズを立ち上げる。K.I.T.虎ノ門大学院教授。国際大学GLOCOM主幹研究員。慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程修了。工学博士。著書に『フューチャーセンターをつくろう』『裏方ほどおいしい仕事はない!』『サラサラの組織』(共著)など。翻訳監修書に『シナリオ・プランニング』『コミュニティ・オブ・プラクティス』『ゲームストーミング』『発想を事業化するイノベーション・ツールキット』などがある。
神田昌典(かんだ・まさのり)
経営コンサルタント、作家、日本最大級の読書会『リード・フォー・アクション』発起人。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。外務省、戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー(日本代表)を経て、1998年、経営コンサルタントとして独立。顧客獲得実践会(のちに「ダントツ企業実践会」、現在は休会)を創設。同会は、のべ2万人におよぶ経営者・起業家を指導する最大規模の経営者組織に発展、急成長企業の経営者、ベストセラー作家などを多数輩出した。1998年に作家デビュー。『全脳思考』『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』『非常識な成功法則』『ストーリー思考』など著書多数。翻訳書に『ザ・コピーライティング』『ザ・マインドマップ』『人を動かす新たな3原則』『ビジネスモデルYOU』などがある。
(鈴木愛子=撮影)
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