一昔前まで全世界の外科医の黄金律は「Big Surgeon Big Incision――偉大な外科医は大きく切る」だった。しかし現在は、ロボット手術に象徴されるように低侵襲術、つまりできるだけ体の表面を傷つけず、術後の合併症を最小限に抑える術式が主流となっている。

その低侵襲の最たる術式がある。通称「NOTES」。英語名を直訳すると「自然開口部経管腔的内視鏡手術」となる。口や肛門、膣など人体の「穴」を経由して特殊な内視鏡を差し入れて手術をする方法だ。

NOTESの欠点は、不潔な消化管経由で内視鏡を入れるため感染症のリスクが高くなること、それに他臓器にアプローチする際、胃や食道の壁の切開と縫合が必要になる点だ。手術時間も通常の腹腔鏡手術より長い。

一方、最大の利点は体表面に一つも傷ができないという点だ。手術跡が残らない術式が確立できれば、手術への心理的なハードルが下がるほか、がん患者の生活の質の向上が期待できる。

世界初のNOTES症例は05年にインドで行われた虫垂炎の手術。その後、米国での胆のう摘出や、消化管に隣接するリンパ節の切除など症例報告が相次いでいる。すでに全世界で3500例以上が実施され、一般的な腹腔鏡手術との比較試験も行われている。

日本では、初めてNOTESを臨床応用した大分大学医学部の北野正剛教授を代表世話人にとする「NOTES研究会」が07年に設立されている。日本独自のNOTESを発展させるべく、安全な手技や柔軟性の高い内視鏡などの専用機器の開発を急いでいる。

ただ現状ではデバイスの限界があり、腹腔鏡手術を併用したハイブリッド型の普及が先行すると思われる。また、がん治療の適用には、安全性や治療成績の検討が必要になる。

かつて、心筋梗塞の治療は心臓外科医による「開胸手術」が一般的だった。しかし、現在は内科医によるカテーテルでの血管内治療が主流だ。がんの局所治療でも内科医が活躍するようになる日は近い。

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