カネボウの買収で、一貫生産体制を実現

そこからがセーレンの革命のスタートです。改善(なおす・よくする)や改革(かわる・かえる)ではなく、革命(こわす・つくる)をやるのだと社内に号令をかけました。繊維産業の常識にとらわれていては、生き残ることはできません。従来の下請け・賃加工業から脱却し、自分で物をつくって売るという企業本来の事業を広げるために、いろいろな手を打ちました。そのとき策定したのが、27年経ったいまも変わらず掲げる5つの経営戦略です。

「のびのび・いきいき・ぴちぴち」という経営理念も、この頃に掲げ始めています。それぞれ、自主性、責任感、使命感を表す言葉です。この旗印のもと、「ビジネスモデルの転換」「非衣料・非繊維化」「IT化」「グローバル化」「企業体質の変革」といった5つの難題に取り組んでいきました。

私たちがやろうとしてきたことは、繊維産業の常識で考えると、すべて非常識です。カネボウ買収のときも、IT化を進めたときも、「頭がおかしいんじゃないか」と業界からバッシングを受けました。業界の常識に反してすべての工程を内製化しようとしたとき、取引先が「そんな会社には仕事を出せない」と競合他社に転注したのはさすがに困りました。

しかし、後戻りしても将来性はありません。かのスティーブ・ジョブズ氏も、「Stay foolish」という言葉を残しています。「頭がおかしい」と思われるくらいのことをやらないと、経営者とは言えないということです。3年先や5年先、10年先の常識は、いまの常識とは違います。将来を切り拓く経営をするなら、いまの常識を否定しなくてはなりません。当社の場合、どうせダメなら……、と開き直った部分も大いにありますが、繊維産業の非常識に挑戦し続けたからこそ、いまのセーレンを築き上げることができたと自負しています。

川田達男(かわだ・たつお)
セーレン会長兼最高経営責任者
1940年、福井県生まれ。62年明治大学経営学部卒、同年福井精練加工(現セーレン)入社。87年社長就任。2003年より最高執行責任者(COO)兼務。05年より最高経営責任者(CEO)兼務。05年に買収したカネボウの繊維部門をわずか2年で黒字化させる。14年より現職。
セーレン http://www.seiren.com/
(前田はるみ=構成)
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