食うためにものを作っているんじゃない

進化が止まらないコイワイだが、かつては採用もままならない企業だった。鋳造のイメージが悪く新卒どころか中途も集まらなかった。いまでは新卒を毎年3~5人順調に採用できるようになった。

インクジェットプリント積層装置。

コイワイは小岩井の父、小岩井守が1973年に自動車部品の試作を手がける鋳造会社として設立した。量産には目を向けず、地道に試作を手がけていたため、バブル崩壊の影響もあまり受けなかった。

小岩井は1978年に入社し、29歳で社長を継いだ。以来、自動車業界の技術の進歩に合わせて、三次元CADを先駆けて導入したり3軸で動く工作機を活用したりしたが、それでも自動車メーカーの要求に追いつけない。

小岩井は2003年に自動車雑誌でドイツのBMW社がエンジンの部品を砂型積層工法で鋳造していることを知った。新人が採用できないという悩みもあり、最新装置を導入できないかと、06年にドイツに渡り、装置メーカーで実験をした。これならば使えそうだと、清水の舞台から飛び降りたつもりで、07年にレーザー工法装置を購入した。

だが、装置の造形速度や積層厚などメーカーが規定しており自由にならない。さらに、表面に樹脂がコーティングされた特殊な砂もドイツ製が指定されており、驚くほど高価だった。この砂が温度や湿度に敏感で保管にも苦労した。

これではランニングコストがかかりすぎると、小岩井は国内の砂メーカーに協力を依頼して同じ機能を持った砂を開発し、価格は10分の1になった。

木型・砂型づくりは従来、ベテラン職人の技術に頼るところが大きかったが、コンピュータに勘は理解できない。勤続25年を超えるベテランたちが3Dプリンターのためにノウハウを提供してくれた。

こうして、自動車メーカーが満足する品質の鋳造品を短納期で提供できるようになった。だが、小岩井はまだ満足していない。

2013年10月には本社横にR&Dセンター(新研究棟)を建設。

「3Dプリンターで他社を圧倒する試作品づくりを目指したい」と語る。

意欲的に挑み、新境地を開いてきた小岩井だが、最近になって「食うためにものを作っているんじゃないということが、ようやく分かった」としみじみ言う。自社のものづくりが実際に社会に役立っていることが、実感できていることの証しだろう。
(文中敬称略)

株式会社コイワイ
●代表者:小岩井豊己
●創設:1973年
●業種:3D砂型積層工法による各種鋳物試作、金型鋳造による量産品製造、鋳造用金型製作など
●従業員:72名(グループ)
●年商:18億円(2013年度)
●本社:神奈川県小田原市
●ホームページ:http://www.tc-koiwai.co.jp/
(佐川幸治=撮影 コイワイ=写真提供)
【関連記事】
「3D」技術が変えるモノづくりの現場、医療の明日
なぜ「3Dプラットフォーム」で仕事が変わるのか
「IT化」で収益力を大幅アップさせる中小企業の秘密
「3Dプリンタ」が巻き起こす第3次産業革命【1】
中小企業も躍進! 注目の5分野はこれだ